小学校で実践するセンサー活用STEAM:身近な計測からデータ分析、表現まで
小学校でのSTEAM教育において、身近な環境や現象を数値として捉え、そこから学びを深める活動は非常に有効です。特にセンサーを活用した計測活動は、科学的な探究心、技術的な操作、数学的なデータの扱い、工学的な問題解決、そして表現(アート)としてのデータ可視化など、STEAMの各要素を結びつける実践的なアプローチとなります。
この活動は、子どもたちが日々の生活の中で感じる疑問(例:「なぜ教室は暑くなるのだろう?」「植物は明るさで育ち方が変わるのだろうか?」)を、具体的なデータに基づいて探究する機会を提供します。本記事では、小学校でセンサー活用STEAMを導入するための具体的な方法と授業アイデアをご紹介します。
なぜ小学校でセンサー活用STEAMに取り組むのか
センサーを使った計測活動は、子どもたちの「なぜ?」「どうなっているの?」という好奇心を満たし、探究的な学びを深めます。また、以下のような力の育成につながります。
- 科学的な探究力: 仮説を立て、データを集めて検証する過程を体験できます。
- 技術・工学的な理解: センサーがどのように機能するか、データ収集の仕組みに触れます。
- データリテラシー: 集めたデータを整理し、傾向を読み取り、意味を見出す力を養います。
- 数学的な思考力: データの数値やグラフを扱うことで、量の感覚や関係性を理解します。
- 表現力・コミュニケーション能力: 集めたデータをどのように分かりやすく伝えるか、友達と共有するかを考えます。
これらの力は、AIやデータサイエンスが身近になるこれからの社会で生きる子どもたちにとって、不可欠なものとなるでしょう。
小学校で扱いやすいセンサーとツールの例
小学校での導入にあたっては、安全性が高く、扱いやすく、比較的安価なツールを選ぶことが重要です。近年では、教育用のマイクロコントローラーと組み合わせて利用できるセンサーが多く開発されています。
- マイクロコントローラー: micro:bitやIchigoJamなど、簡単なプログラミングでセンサーからの値を読み取ったり、その値に応じて何かを動かしたりできるものがあります。これらは、LED表示や簡単な入出力ピンを備えており、外部センサーとの接続も比較的容易です。
- 身近なセンサー:
- 光センサー(明るさセンサー): 周囲の明るさを数値で取得できます。窓際と廊下の明るさの違い、時間による変化などを測れます。
- 温度・湿度センサー: 教室や屋外、日向と日陰の温度・湿度の違いなどを比較できます。
- 距離センサー(超音波センサーなど): 物体との距離を測れます。かざした手との距離や、物の大きさを相対的に測る活動に利用できます。
- 加速度センサー・電子コンパス(micro:bit内蔵など): 傾きや動き、方角を検出できます。体の動きをデータにする活動などに使えます。
これらのセンサーは、電子部品として購入することも可能ですが、教育用に端子が加工されていたり、特定のツール(micro:bitなど)に接続しやすい形になっていたりするものが小学校には適しています。
センサー活用STEAM 授業実践のステップとアイデア
具体的な授業活動は、子どもたちの興味関心や学年の発達段階に合わせて計画します。以下に、導入しやすいステップとアイデアをご紹介します。
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身近な「変化」に気づく・問いを持つ:
- 例:「今日の教室、なんだか昨日より暑いな」「朝と昼で、廊下の明るさはどう違うんだろう?」など、子どもたちが日頃感じている環境の変化に注目させます。
- 「それをどうやったらもっと正確に調べられるかな?」と問いかけ、センサーを使った計測の必要性や便利さを導入します。
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センサーで「測ってみる」:
- 選んだセンサーを使って、実際に特定の場所や状況の値を測ってみます。
- 例:
- 温度センサーを使って、教室の場所ごとの温度を測る。
- 光センサーを使って、窓の近く、真ん中、廊下側の明るさを測る。
- 距離センサーを使って、自分の身長を友達に測ってもらう(相対的な比較)。
- マイクロコントローラーを使う場合は、簡単なプログラムでセンサーの値を読み取り、画面やLEDに表示するといった活動を行います。
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データを「記録する」:
- 測った値を記録します。最初は手書きのノートやワークシートでも十分です。慣れてきたら、タブレットの表計算アプリや、簡単なデータロガー機能を持つツール(対応していれば)を使うことも考えられます。
- 「いつ」「どこで」「何を測ったか」といった項目を明確にして記録する大切さを伝えます。
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データを「整理・可視化する」:
- 集まったデータを整理し、傾向を見つけやすくするためにグラフなどにします。
- 例:
- 温度データを場所ごとに並べて棒グラフにする。
- 明るさデータを時間ごとに折れ線グラフにする。
- 手書きでも簡単に図やグラフを作成します。
- 表計算ソフトの使い方に少し慣れていれば、デジタルでのグラフ作成にも挑戦できます。
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データから「考える・表現する」:
- 作成したグラフや整理したデータを見て、どんなことが言えるか、気づいたことは何かを考え、話し合います。
- 例:「窓側が一番明るいね」「お昼休み時間が一番温度が高くなるみたい」「このデータから、教室をもっと快適にするにはどうしたらいいかな?」といった問いを設定します。
- 考えたことや分かったことを、絵や文章、グラフなどを使って発表したり、ポスターにまとめたりします。これがSTEAMの「Art」やコミュニケーションの要素につながります。
他の教科との連携例
センサー活用STEAMは、単独の活動としてだけでなく、様々な教科と連携させることでより深い学びに繋がります。
- 理科: 温度、光、音、湿度などの環境要因と生物や現象の関係を調べる実験と組み合わせます。例:植物の成長と日照時間の関係を光センサーで調べる。
- 算数: グラフの読み方・書き方、平均値や変化量といったデータの数学的な扱いを実践的に学びます。
- 総合的な学習の時間: 地域環境の調査、SDGsに関わる課題探究(例:エネルギー消費と室温の関係)など、現実の課題解決に向けたデータ収集活動に活用できます。
- 図工: センサーデータを視覚的に表現するアート作品制作(例:音の大きさに応じて色が変化する光るオブジェ)や、計測機器のデザインなどを通して表現の幅を広げます。
導入における留意点
- 技術的なハードルを低く: 最初から難しいプログラミングや電子工作を目指す必要はありません。センサーの値を読み取るだけの簡単な活動から始め、徐々に発展させていくのが良いでしょう。既製の教育用キットを活用するのも一つの方法です。
- 子どもたちの興味を起点に: どんなデータを測りたいか、何を知りたいか、子どもたち自身に考えさせることで主体的な学びにつながります。
- 安全第一: 電子部品や配線を扱う際は、ショートや破損に注意し、安全な環境で行います。
- 評価: センサーの正確な操作やデータの完璧さだけでなく、探究の過程、データから考えたこと、表現の工夫といった点に焦点を当てて評価を行います。
センサーを使った計測活動は、子どもたちが「データに基づいて考える」という、これからの社会で非常に重要なスキルを育むための、具体的で魅力的な入り口となり得ます。身近な環境を題材に、ぜひ小学校でのSTEAM教育に取り入れてみてはいかがでしょうか。