小学校理科単元で実践するSTEAM教育:具体例と連携方法
小学校の先生方にとって、理科は子どもたちが身の回りの自然現象や科学的な事象に触れる重要な教科です。この理科の学びをさらに深め、子どもたちの探究心や創造性を育む上で、STEAM教育の視点を取り入れることは非常に有効です。
本稿では、小学校の理科単元とSTEAM教育をどのように連携させられるか、具体的な授業例や実践のポイントを解説します。
小学校理科にSTEAMを取り入れる意義
小学校の理科では、観察や実験を通して科学的な概念を学ぶことが中心です。ここにTechnology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)といったSTEAMの要素を加えることで、子どもたちは単に知識を得るだけでなく、以下のような力を育むことができます。
- 課題解決能力: 観察した現象から疑問を持ち、それを解決するための方法を考え、形にするプロセス。
- 創造性: 既存の知識を活用し、新しいアイデアを生み出す。
- 論理的思考力: 仮説を立て、データを収集・分析し、結論を導く。
- 表現力: 探究の過程や結果を多様な方法で伝える。
- 協働性: グループで協力し、互いのアイデアを組み合わせながら課題に取り組む。
これらの力は、予測困難な現代社会を生きる上で不可欠なものです。理科という身近な題材を通してSTEAM的な学びを実践することは、子どもたちの未来の学びにも繋がります。
理科単元とSTEAM要素の連携の視点
小学校の理科単元は多岐にわたりますが、それぞれの単元にSTEAMの視点を取り入れることが可能です。以下に、STEAMの各要素を理科の学びにどう結びつけられるかの一般的な視点を示します。
- S(Science): 単元の中心となる科学的な概念や現象。
- T(Technology): 観察や測定のためのツール(温度計、顕微鏡など既知のものから、簡単なセンサー、データロガー、プログラミング可能なツールなど)の利用、情報収集・整理のためのICT活用。
- E(Engineering): 実験装置や観察道具の設計・製作・改良、現象を利用した仕組みづくり、課題解決のための「ものづくり」。
- A(Art): 観察記録の多様な表現(精密画、模式図、写真、動画、立体モデル)、実験結果のグラフや図の分かりやすいデザイン、探究過程を伝えるためのプレゼンテーション資料や作品制作。
- M(Mathematics): 測定、データ収集、数量的な比較、計算、グラフ作成、データ分析、パターン認識。
これらの要素を意識することで、既存の理科の授業をより豊かに、そして探究的な活動へと発展させることができます。
具体的な授業実践例
ここでは、いくつかの小学校理科の単元を取り上げ、STEAM連携の具体的な授業例を紹介します。
例1:天気と気象観測(高学年向け)
- 単元: 天気と気候
- STEAM連携:
- S: 天気現象、気温・湿度・気圧などの要素、雲の種類、気象予報の仕組み。
- T: 簡単なセンサー(温度、湿度など)を使ったデータ収集、収集したデータの記録・管理(表計算ソフトなど)。
- E: 身近な素材や簡単な道具を使って、風向計、雨量計、日照計などの簡単な気象観測装置を設計し、製作する。より進んだ例では、温度センサーとmicro:bitなどを組み合わせて簡易的な温度記録装置を作る。
- A: 観測記録を分かりやすくグラフ化する(手書き、PCツール)。雲の様子や天気図を絵や記号で表現する。観測結果や装置について発表するためのポスターやスライドをデザインする。
- M: 観測データの記録、平均気温の計算、グラフ作成と分析(気温の変化、降水量との関係など)、天気予報の確率の理解。
- 活動例:
- 天気の変化や気象要素に関心を持つ(S)。
- どのような気象要素をどのように測れば天気の変化が分かるかを考える(S, M)。
- 必要な観測装置についてアイデアを出し合い、身近な素材で設計・製作する(E, A)。
- 一定期間、製作した装置や市販の道具を使って気象観測を行い、データを記録する(S, T, M)。
- 収集したデータを整理・分析し、グラフにまとめる(M, A)。
- 観測結果から分かったことや、装置の工夫点などを発表する(S, E, A)。
例2:植物の成長と栽培(中学年・高学年向け)
- 単元: 植物の成長、植物の養分と水の通り道
- STEAM連携:
- S: 植物の発芽、成長に必要な条件(光、水、養分、温度)、光合成、水の通り道。
- T: 成長記録を写真や動画で残す。土壌水分センサーなど簡単なセンサーを使った水やりの管理。プログラミング可能なツール(例: micro:bit)とポンプを組み合わせて簡易自動水やり装置を作る(高学年向け)。
- E: 植物がよく育つための環境(日当たり、水やり、支柱など)を工夫する。植物の成長を助ける道具(例: 発芽トレイ、簡単な温室)を設計・製作する。
- A: 観察日記や成長記録を絵や写真、文章で詳細に表現する。スケッチ、精密画、模式図などで植物の内部構造や成長過程を記録する。成長記録をグラフや表にまとめて分かりやすく示す。
- M: 草丈や葉の数を測定し、記録する。水や肥料の量を計量する。一定期間ごとの成長率を計算し、グラフ化する。異なる条件での成長を比較し、数量的に考察する。
- 活動例:
- 植物の成長に必要な条件について話し合う(S)。
- 特定の条件(例: 水の量、光の強さ、土の種類)を変えて植物を育て、成長の違いを観察するという課題を設定する(S)。
- 実験方法や観察・記録の方法を計画する(S, E, M)。必要に応じて、成長を助ける簡単な道具や装置(自動水やりなど)を設計・製作する(E, T)。
- 定期的に観察、測定、記録を行い、写真や絵、文章、データでまとめる(S, A, M, T)。
- 得られたデータを分析し、条件と成長の関係について考察する(S, M)。
- 実験結果やそこから分かったことを様々な方法(発表、展示、観察記録集)で表現する(S, A)。
例3:電気の利用(高学年向け)
- 単元: 電気の働き、電磁石
- STEAM連携:
- S: 回路、電流、電圧、抵抗の基本的な概念、電磁石の性質、モーターの仕組み。
- T: 電池、豆電球、導線、スイッチ、モーター、ブザー、LEDなどの基本的な電気部品の利用。プログラミング可能なツール(micro:bitなど)と組み合わせて、電気を制御する。
- E: 電気の働きを利用した簡単な「おもちゃ」や「装置」を設計・製作する。意図した通りに動くように、回路の組み方や機械的な仕組みを工夫・改良する。
- A: 回路図を分かりやすく書く。製作した作品を装飾する。作品の仕組みや工夫点を伝えるための説明書や動画を作成する。
- M: 電池の数や豆電球の数による明るさの変化を比較する(定性的にまたは簡単な測定器で)。回路図の記号を理解する。
- 活動例:
- 電気の基本的な働きや回路の仕組みを学ぶ(S)。
- 「電気を使って動くおもちゃを作ろう」などの課題を設定する(E)。
- どのような仕組みにするかアイデアを出し合い、回路図や設計図をかく(E, S, A)。
- 必要な部品を選び、製作する(E, T)。
- うまく動かない場合は、どこに問題があるかを考え、改良する(E, S)。
- 完成した作品を発表し、仕組みや工夫点を説明する(S, E, A)。
実践のポイントと課題解決のヒント
小学校の限られた時間の中で理科とSTEAMを連携させるには、いくつかの工夫が必要です。
- 単元の一部分から始める: 単元の全てをSTEAM化しようとせず、例えば実験や観察の「発展」や「応用」として、STEAM的な活動を取り入れることから始める。
- 既存の教材を活かす: 市販の理科実験キットや観察セットに、ものづくりの要素やデータ収集・分析の活動を付け加える。
- 身近な素材を活用する: 高度なツールを使わずとも、段ボール、ペットボトル、ゴム、クリップなど身近な素材で十分STEAM的なものづくりは可能です。
- 「問い」を大切にする: 子どもたちが「なぜ?」「どうすれば?」という問いを持ち、それを解決するために自ら考え、試行錯誤する過程を重視する。
- プロセスと表現を評価する: 完成品の出来栄えだけでなく、課題設定、設計、試行錯誤、協力する様子、そして探究の過程や結果をどのように表現したかといったプロセスを評価に取り入れる。
- 他教科との連携を視野に: 図工の時間にものづくり、算数の時間にデータ整理・分析、総合的な学習の時間に探究活動として位置づけるなど、教科横断的な視点を持つことで、時間的な制約を乗り越えられる場合があります。
まとめ
小学校理科の授業にSTEAMの視点を取り入れることは、子どもたちの科学への興味・関心を深めるだけでなく、これからの時代に必要な多様な資質・能力を育む上で大きな可能性を秘めています。
最初から全てを完璧に行おうとする必要はありません。まずは一つの単元、一つの活動から、子どもたちが「楽しい!」「もっと知りたい!」と思えるような、理科と他分野が連携した探究活動を試みてはいかがでしょうか。このウェブサイトが、先生方の実践の一助となれば幸いです。