小学校の総合的な学習の時間でSTEAM教育をどう進めるか:単元設計と具体的な活動例
はじめに
小学校におけるSTEAM教育の導入は、子どもたちの探究心や創造性を育む上で非常に有効です。しかし、限られた授業時間の中でどのように実践すれば良いか、教材は何を使えば良いかといった課題に直面する先生方も少なくありません。
このような状況において、「総合的な学習の時間」はSTEAM教育を効果的に導入するための有力な選択肢の一つとなります。総合的な学習の時間には特定の教科の枠にとらわれず、子どもたちが主体的に課題を設定し、解決に向けて探究する時間として位置づけられています。この特性は、まさに教科横断的で実践的な学びを目指すSTEAM教育と高い親和性を持っています。
本記事では、小学校の総合的な学習の時間でSTEAM教育をどのように進めるか、具体的な単元設計の考え方や活動例を通して解説いたします。
総合的な学習の時間でSTEAM教育を行うメリット
総合的な学習の時間でSTEAM教育を取り入れることには、いくつかの大きなメリットがあります。
まず、時間の確保がしやすい点です。特定の教科の進度に縛られず、比較的まとまった時間を確保しやすいため、探究的な活動やものづくり、プログラミングなど、ある程度の時間を要するSTEAM活動を計画的に実施できます。
次に、教科横断性を自然に実現できる点です。総合的な学習の時間では、子どもたちが設定した課題の解決を目指す過程で、国語、算数、理科、社会、図画工作、家庭科、情報など、様々な教科で学ぶ知識や技能が必要となります。これはSTEAM教育が目指す、各分野(Science, Technology, Engineering, Art, Mathematics)を統合した学びと合致しています。
また、子どもたちの主体性や探究心を引き出しやすい点も重要です。総合的な学習の時間で扱うテーマは、子どもたちの興味関心や地域の実態に基づいて設定されることが多く、自分事として捉えやすいため、学習へのモチベーションを高めることができます。
総合的な学習の時間におけるSTEAM単元設計のポイント
総合的な学習の時間でSTEAM教育を実践するための単元設計には、いくつかのポイントがあります。
1. 子どもたちの興味関心や地域の実態に基づいたテーマ設定
STEAM教育における探究の出発点は、子どもたちの「なぜ?」「どうして?」という疑問や、身の回りの課題です。総合的な学習の時間では、学級や学校、地域の特色を踏まえ、子どもたちが主体的に取り組みたいと思えるテーマを設定することが重要です。
例えば、「私たちの町の防災」「未来のエネルギー」「暮らしとテクノロジー」「地域の自然を守るために」など、具体的で子どもたちが課題を見つけやすいテーマが考えられます。これらのテーマの中に、科学的な探究、技術の活用、工学的なものづくり、芸術的な表現、数学的な分析といったSTEAMの要素が自然に含まれるように設計します。
2. 明確な学習目標とSTEAM分野との関連付け
単元の目標は、単に特定の知識を習得することに留まらず、探究の過程でどのような資質・能力(思考力、判断力、表現力、学びに向かう力、人間性など)を育むかという視点を含めることが大切です。
設定したテーマが、STEAMのどの分野と特に関連が深いのかを明確にします。例えば、「地域の自然を守るために」というテーマであれば、科学的な調査(Science)、環境データを収集・分析する技術(Technology)、自然保護のための仕組みや装置の考案・製作(Engineering)、成果の表現方法としての芸術(Art)、調査データの分析やグラフ化(Mathematics)といった要素が考えられます。
3. 探究プロセスに沿った活動計画
総合的な学習の時間における探究のプロセスは、「課題設定→情報収集→整理・分析→まとめ・表現」が一般的です。この各段階に、具体的なSTEAM活動を位置づけます。
- 課題設定: テーマの中から、子どもたちが解決したい具体的な課題を見つける活動。ブレインストーミングやフィールドワークなどが考えられます。
- 情報収集: 課題解決に必要な情報を集める活動。書籍やインターネットでの調査に加え、専門家へのインタビュー、センサーを用いたデータ収集などが含まれます。
- 整理・分析: 集めた情報を分類し、課題解決に役立つ知見を導き出す活動。グラフ作成やデータ分析、実験結果の考察などを行います。
- まとめ・表現: 探究の成果や解決策を、様々な方法でまとめ、発表する活動。プレゼンテーション、レポート作成に加え、作品展示、デジタルコンテンツ制作、演劇などが考えられます。
4. 評価方法の検討
STEAM教育における評価は、単なる知識の定着だけでなく、探究の過程や、課題解決に向けた思考力・協働性などを多角的に評価することが重要です。ルーブリックを活用したり、活動の記録(ポートフォリオ)を活用したりする方法が有効です。総合的な学習の時間で育成を目指す資質・能力を踏まえ、適切な評価方法を計画段階で検討しておきます。
具体的な活動例
いくつかのテーマを取り上げ、総合的な学習の時間でのSTEAM活動例をご紹介します。
例1:私たちの町の防災(高学年向け)
- テーマ: 私たちの町を災害から守るために、自分たちにできることを考え、提案しよう。
- STEAM要素: Science(災害のメカニズム、自然科学)、Technology(ハザードマップ、情報収集ツール)、Engineering(避難経路設計、簡易防災グッズ製作)、Art(防災マップのデザイン、発表方法の工夫)、Mathematics(データ分析、確率計算)
- 活動例:
- 地域のハザードマップを読み解き、危険箇所を特定する(Science, Technology, Mathematics)。
- 過去の災害事例を調査し、原因や被害状況を分析する(Science, Technology)。
- 避難所までの最適なルートを、地図アプリやプログラミングを用いてシミュレーションする(Technology, Mathematics, Engineering)。
- 身近な素材で簡易的な防災グッズを考案し、試作する(Engineering, Art)。
- 地域住民向けの防災啓発コンテンツ(ポスター、動画、ウェブサイトなど)を作成し、発表する(Technology, Art)。
- センサーを使って、地震の揺れを感知する早期警報装置のモデルを制作する(Science, Technology, Engineering)。
例2:未来のエネルギーを探ろう(中学年向け)
- テーマ: 地球にやさしいエネルギーについて知り、未来のエネルギー発電所を考えよう。
- STEAM要素: Science(エネルギーの仕組み、再生可能エネルギー)、Technology(発電技術、エネルギー変換)、Engineering(発電装置のモデル製作、効率化)、Art(未来の発電所のデザイン、表現)、Mathematics(発電量の計算、グラフ化)
- 活動例:
- 風力、太陽光、水力などの再生可能エネルギーについて調べる(Science)。
- 簡易的な風車やソーラーパネルを使って、光や風でLEDを点灯させる実験をする(Science, Engineering)。
- 身近な素材や簡単な電子工作キット(例: 電子ブロック、micro:bit)を使って、未来のエネルギー発電所のミニチュアモデルを製作する(Technology, Engineering, Art)。
- 発電した電気の量を計測し、記録・グラフ化する(Mathematics, Technology)。
- 調べたことや作ったモデルについて、発表会や展示会で発表する(Art)。
例3:くらしを便利にするテクノロジー(低学年向け)
- テーマ: 身の回りの「便利」はどうやってできているのかな?自分で考えて工夫してみよう。
- STEAM要素: Science(身の回りの物や現象の仕組み)、Technology(道具の使い方、簡単なプログラミング的思考)、Engineering(工夫すること、ものづくり)、Art(表現すること、デザイン)、Mathematics(形、数、順序)
- 活動例:
- 身の回りの便利な道具(例: 洗濯機、掃除機、自動販売機)について話し合い、どんな仕組みで動いているか想像する(Science, Technology)。
- 簡単な命令ブロック(例: Scratch Jr., Ozobot)を使って、ロボットやキャラクターを思い通りに動かすプログラミング遊びをする(Technology)。
- 「もっとこうなったら便利だな」と思うものを考え、絵や粘土などで自由に表現する(Art, Engineering)。
- 段ボールや牛乳パックなどの廃材を使って、簡単な仕掛けのあるおもちゃ(例: ビー玉転がし、動く人形)を製作する(Engineering, Art)。
- 作ったものや発見したことについて、友達に説明したり絵にかいたりして伝える(Art)。
これらの例はあくまで一例です。扱うテーマや学年の実態に合わせて、活動内容や使用するツールは柔軟に検討してください。
実践上の注意点
- ファシリテーターとしての役割: 先生は全ての答えを教えるのではなく、子どもたちが自ら考え、試し、失敗から学びを得られるよう、適切な問いかけやサポートを行うファシリテーターに徹することが重要です。
- 安全管理: ものづくりや実験活動を行う際は、工具の使い方や材料の取り扱いなど、安全確保に十分配慮してください。
- チームワークの育成: 総合的な学習の時間では、グループで活動することが多いです。協働的な学びを通して、互いの意見を尊重し、協力しながら課題解決に取り組む姿勢を育みます。
- 学びの記録と共有: 活動の過程を写真や動画、メモなどで記録し、振り返りや成果発表に活用します。ポートフォリオを作成することも有効です。
まとめ
小学校の総合的な学習の時間にSTEAM教育を取り入れることは、子どもたちの探究心、創造性、そして社会と関わる力を育むための有効なアプローチです。単元設計の段階で、子どもたちの興味関心や地域の実態に基づいたテーマを設定し、探究のプロセスに沿ってSTEAMの各要素が自然に組み込まれるように計画することで、子どもたちは主体的に学びを進めることができます。
具体的な活動例を参考に、ぜひ先生方の学校や学級の実情に合わせたSTEAM単元を計画・実践してみてください。総合的な学習の時間が、子どもたちが未来を創造する力を育む豊かな学びの場となることを願っております。