小学校STEAM教育で育む協働的な学び:授業での具体的なアプローチと評価のヒント
はじめに:STEAM教育と「協働」の重要性
近年、小学校においてもSTEAM教育への関心が高まっています。科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)といった多様な分野を横断的に学び、実社会の課題解決や新たな価値創造を目指すSTEAM教育において、「協働的な学び」は非常に重要な要素の一つです。
子どもたちが互いの知識やアイデアを共有し、共に課題に取り組み、試行錯誤するプロセスを通じて、コミュニケーション能力、問題解決能力、そして多様な価値観を尊重する姿勢が育まれます。これは、これからの社会で求められる資質・能力の育成に不可欠です。
しかしながら、実際の授業において、どのようにすれば子どもたちの協働的な学びを効果的に引き出し、深めることができるのか、また、その協働の過程や成果をどのように評価すれば良いのか、といった点で悩まれる先生方も少なくないのではないでしょうか。
この記事では、小学校でのSTEAM教育において、子どもたちの協働的な学びを促進するための具体的な授業アプローチと、その評価に関するヒントをご紹介します。
授業で協働的な学びを促進するアプローチ
STEAM教育におけるプロジェクト型の学習や探究活動では、子どもたちがグループで一つの目標に向かって取り組む機会が多くあります。ここでは、協働をより効果的に進めるための具体的なアプローチをいくつかご紹介します。
1. 明確な目標と役割分担の設定
グループでの活動を始める前に、何を目指すのかという「共通の目標」と、その目標達成に向けて「それぞれの役割」を明確にすることが重要です。
- 目標設定: ただ漠然と「〜を作ろう」とするのではなく、「〜という問題を解決するために、△△という機能を持つものを作ろう」のように、具体的な目的意識を持たせます。
- 役割分担: 初期の段階では、司会、記録係、材料係、発表係など、分かりやすい役割を設定します。活動が進むにつれて、設計担当、プログラミング担当、デザイン担当など、より専門的な役割も生まれてくるでしょう。子どもたちの得意なことや興味に合わせて役割を決めたり、途中で役割を交換したりする機会を設けることも、多様な経験を積む上で有効です。
2. コミュニケーションを促す環境とファシリテーション
協働において、子どもたちが自由に意見を述べ、互いのアイデアを尊重し合える環境づくりが不可欠です。
- 物理的な環境: グループで集まりやすい机の配置や、ホワイトボードや大きな紙を使ってアイデアを共有・可視化できるスペースを確保します。
- 対話のルール: 「人の話を最後まで聞く」「意見を否定せず、まずは受け止める」「分からないことは質問する」など、基本的なコミュニケーションのルールを事前に確認しておきます。
- 先生のファシリテーション: 先生は単に知識を教えるだけでなく、子どもたちの対話を促すファシリテーターとしての役割が求められます。「〇〇さんのアイデアについてどう思う?」「もっと別の考え方はないかな?」「困っていることはない?」など、問いかけを通して子どもたちの思考や対話を深めます。特定のリーダーに任せきりにせず、全員が参加できているか気を配ることも大切です。
3. 振り返りと情報共有の機会の設定
活動の途中や最後に、グループ内やクラス全体での振り返りと情報共有の時間を設けます。
- グループ内での振り返り: 「今日は何ができたか」「何がうまくいかなかったか」「次はどうするか」などを話し合う時間を取ります。これにより、子どもたちは自分たちの進捗状況を把握し、今後の活動計画を立てることができます。
- 全体での情報共有: 各グループの進捗状況や課題、発見などを全体に共有する機会を設けます。他のグループの実践を知ることは、新たなアイデアや視点を得ることに繋がります。発表の形式を工夫する(ポスター、プレゼンテーション、デモンストレーションなど)ことで、表現力も養われます。
協働的な学びを評価する視点とヒント
STEAM教育における協働的な学びの評価は、単に最終的な成果物の完成度だけでなく、その過程で子どもたちがどのように関わり、学び合ったかというプロセスに焦点を当てることが重要です。
1. プロセス評価の観点例
以下のような観点から、子どもたちの協働のプロセスを評価することが考えられます。
- 貢献度: グループの目標達成に向けて、自身の役割を果たし、積極的に貢献しているか。
- コミュニケーション: 自分の意見を分かりやすく伝え、相手の意見をしっかりと聞いているか。質問や応答を適切に行っているか。
- 協力: グループのメンバーと協力し、困難な状況でも諦めずに粘り強く取り組んでいるか。困っている仲間を助けているか。
- 問題解決への関与: グループで直面した問題に対して、共に解決策を考え、実行しているか。
- リフレクション(振り返り): 自分自身の役割や貢献について振り返り、次の活動に活かそうとしているか。
2. 評価方法のヒント
これらの観点を踏まえ、以下のような方法を組み合わせて評価することが考えられます。
- 観察記録: 先生がグループ活動中の子どもたちの様子を観察し、上記の観点に沿って記録します。特定の観点に焦点を当てて記録用紙を作成すると整理しやすくなります。
- 自己評価・相互評価: 活動の最後に、子どもたち自身に自分自身の貢献度やグループへの関わりについて振り返ってもらったり、グループのメンバー同士で互いの良い点や頑張っていた点を伝え合ったりする機会を設けます。低学年の場合は、簡単なチェックリストやイラストを用いたシートを活用するなどの工夫が必要です。
- 活動ログ・ジャーナル: グループや個人で、活動内容、役割分担、話し合ったこと、困ったこと、解決策などを記録する時間を設けます。これにより、活動のプロセスを可視化し、評価の参考にすることができます。
- 成果発表: 最終的な成果物だけでなく、それをどのように作ったのか、どのような課題があり、どう解決したのかといったプロセスを含めて発表してもらいます。発表の様子からも、子どもたちの協働の様子を伺うことができます。
まとめ
小学校におけるSTEAM教育で協働的な学びを育むことは、未来を生きる子どもたちにとって非常に価値のある経験となります。明確な目標設定と役割分担、コミュニケーションを促すファシリテーション、そして振り返りの機会を設定することで、子どもたちは互いに学び合い、共に成長していくでしょう。
また、協働の評価においては、最終的な成果だけでなく、そこに至るプロセス、特に子どもたちの関わり方や貢献度といった側面に目を向けることが大切です。観察記録や自己評価・相互評価などを効果的に活用し、子どもたちの頑張りや学びのプロセスを丁寧に見ていくことで、次なる学びへの励みとすることができます。
少しの工夫と意識で、日々の授業の中で子どもたちの協働的な学びを育むことは可能です。この記事が、先生方のSTEAM教育における実践の一助となれば幸いです。