小学校STEAM教育で子どもたちの探究を深める:探究サイクルの具体的な回し方
小学校におけるSTEAM教育の導入や実践において、「探究」は中心的な要素の一つです。子どもたちが自ら問いを立て、試行錯誤しながら学びを進める探究活動は、STEAM分野の知識や技能を横断的に活用し、課題解決能力や創造性を育む上で非常に重要です。しかし、日々の授業の中で、どのように探究活動を計画し、子どもたちが主体的にサイクルを回せるように支援すれば良いのか、悩まれている先生方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、小学校でのSTEAM教育における探究活動を円滑に進めるために、探究サイクルを構成する主要なステップと、それぞれのステップで教師がどのように支援できるのか、具体的な実践のヒントを交えて解説します。
STEAM教育における「探究サイクル」とは
探究サイクルとは、子どもたちが一つのテーマや課題に対して、学びを深めていくための連続的なプロセスを示します。一般的な探究サイクルは、以下のようなステップで構成されることが多いです。
- 問いの設定(疑問を持つ、課題を見つける)
- 計画(調べる方法や作るものを考える)
- 実行(調べたり、作ったりする)
- 振り返り(結果を整理し、考えを深める)
- 表現・共有(学んだことや作ったものを発表する)
これらのステップは一方通行ではなく、実行の過程で新たな問いが生まれたり、振り返りから計画を修正したりと、循環しながら進んでいくことが特徴です。STEAM教育では、特に「実行」の段階で科学的な探究、技術や工学を用いたものづくり、アートによる表現などが複合的に関わってきます。
小学校での探究サイクル実践:各ステップのポイント
ここでは、小学校の授業で探究サイクルを効果的に回すための具体的なアプローチをご紹介します。
1. 問いの設定:子どもの「なぜ?」「どうして?」を引き出す
探究のスタートは、子どもたちの興味や疑問、身近な課題です。
- 身近なテーマからの導入: 教科書の内容や単元の導入と関連させつつ、子どもたちの日常生活や地域、自然現象など、身近で具体的な事柄から問いを設定しやすいテーマを設定します。
- 子どもの興味の掘り起こし: 導入時や活動中に、子どもたちが抱いた素朴な疑問や「もっと知りたい」という気持ちを大切にし、自由に言葉にできる雰囲気を作ります。「これってどうなっているんだろう?」「もし~だったらどうなる?」といった、探究に繋がりやすい言葉がけを促します。
- 問いの焦点化の支援: 子どもたちから多くの疑問が出た場合、全てに取り組むことは難しいため、クラス全体やグループで取り組む問いを絞り込む支援を行います。面白そうか、自分たちで探究できそうか、といった視点で話し合い、問いを具体的にしていきます。例えば、「植物」という広いテーマから「どうしたらアサガオの種を早く芽吹かせられるか?」のように具体的な問いへ誘導します。
2. 計画:見通しを持ち、協働を学ぶ
問いが設定できたら、次にその問いにどう向き合うかを計画します。
- 探究方法の検討: 「調べる」「実験する」「作る」「観察する」など、様々な探究の方法があることを示し、問いに対してどのような方法が有効か、子どもたち自身に考えさせます。
- 具体的な活動計画: グループごとに、誰が何をするか、どのような手順で進めるか、必要なものは何かなどを具体的に話し合って計画を立てさせます。この際、計画シートを活用したり、簡単な図や絵で表現させたりすることも有効です。
- 教師によるヒントや資料の提供: 子どもたちだけで計画が立てられない場合や、実現が難しい計画になっている場合は、ヒントを与えたり、関連する書籍やウェブサイトなどの資料を示したりして支援します。ただし、計画を立ててあげるのではなく、あくまで子どもたちが主体的に考えられるように促すことが重要です。
3. 実行:試行錯誤を繰り返し、学びを深める
計画に基づき、実際に探究活動を進める最も時間とエネルギーを要するステップです。
- 多様な活動の保障: 調べ学習、実験、観察、ものづくり(プログラミング、工作、デザインなど)、データ収集など、探究内容に応じた多様な活動ができる環境を用意します。ICTツールや簡単な実験道具、身近な素材などを活用します。
- 試行錯誤の奨励: 想定通りに進まないことや失敗は、探究における重要な学びの機会です。失敗を恐れずに様々な方法を試したり、原因を考えたりすることを奨励します。「どうしてうまくいかなかったのかな?」「次はどうしてみようか?」といった声かけが有効です。
- 教師の観察と声かけ: 子どもたちの活動の様子をよく観察し、困っているようであればヒントを与えたり、発見や努力を認めたり、新たな問いに気づかせたりする声かけを行います。必要に応じて、探究に必要な知識や技能(例:プログラミングのブロックの使い方、安全な実験方法、調べた情報のまとめ方など)をミニレクチャーとして行うことも考えられます。
4. 振り返り:学びを整理し、新たな気づきを得る
活動で得られた結果や過程を振り返り、自分の考えや学びを整理するステップです。
- 結果や過程の共有: グループ内で、活動中に気づいたこと、うまくいったこと、困ったこと、得られた結果などを共有する時間を設けます。
- 学びの記録: 振り返りの内容や、活動で分かったこと、疑問に思ったことなどを、言葉や絵、写真など様々な方法で記録させます。探究ノート、デジタルポートフォリオ、ワークシートなどが活用できます。これは次の「表現・共有」の準備にもなります。
- 教師による問いかけ: 「活動する前と比べて、どんなことが新しく分かりましたか?」「計画通りに進みましたか? それとも、計画を変えましたか? どうしてですか?」「活動を通して、もっと知りたいと思ったことはありますか?」など、学びを深めるための問いかけを行います。
5. 表現・共有:学びを伝え、仲間の学びから刺激を受ける
探究を通して得られた学びや成果を、他者に伝わる形にまとめ、共有するステップです。
- 多様な表現方法: 発表会(口頭発表、ポスターセッション)、作品展示、レポート作成、デジタルコンテンツ(動画、ウェブサイト)、パフォーマンスなど、学びの成果や内容に応じた多様な表現方法を用意し、子どもたちに選ばせます。STEAM教育では、技術やアートを活かした創造的な表現も重要になります。
- 効果的な伝え方の指導: 相手に分かりやすく伝えるための構成や話し方、資料の見せ方などについて、簡単な指導を行います。
- フィードバックと次の探究へ: 発表を聞いた他の子どもたちや教師からのフィードバックを受ける機会を設けます。肯定的なフィードバックと共に、「もっと知りたい」「次はどうするの?」といった問いかけは、子どもたちのさらなる探究意欲に繋がります。
探究サイクル実践のためのポイント
- 授業時間の確保と単元デザイン: 探究活動は一定の時間が必要です。総合的な学習の時間を中心に進めるほか、各教科の時間を関連付けて活用したり、複数時間の連続した単元としてデザインしたりする工夫が求められます。
- 評価との関連: 探究活動における評価は、最終的な成果だけでなく、探究のプロセス(問いの立て方、計画の工夫、試行錯誤の様子、振り返りなど)を多角的に捉えることが重要です。学びの記録(探究ノート、ポートフォリオ)は評価の重要な資料となります。
- 教師の役割の変化: 教師は知識を一方的に教えるのではなく、子どもたちの探究を支援するファシリテーターとしての役割が中心となります。子どもたちの疑問やアイデアに耳を傾け、適切なヒントを与え、安全な環境を整えることが求められます。
まとめ
小学校でのSTEAM教育における探究サイクルは、子どもたちが主体的に学びを進め、深い理解と多様な能力を育むための重要な枠組みです。「問いの設定」から「表現・共有」まで、それぞれのステップで子どもたちが主体性を発揮できるよう、教師が適切な支援を行うことで、探究活動はより豊かな学びへと繋がります。この記事でご紹介したヒントが、先生方の今後のSTEAM教育実践の一助となれば幸いです。子どもたちと共に、探究の面白さを体験してください。