科学実験と工学的なものづくりを組み合わせる小学校STEAM授業:理科単元と連携する実践例
はじめに
小学校における理科の学習は、子どもたちが自然現象や科学的な法則に触れ、探究心を育む上で非常に重要です。教科書や実験器具を使った活動は、子どもたちの「なぜだろう?」「どうなっているのだろう?」という問いを引き出すきっかけとなります。STEAM教育の視点を取り入れることで、これらの科学実験をさらに深め、学びを広げることが可能です。
特に、科学的な原理や現象を理解する過程に「工学的なものづくり」を組み合わせるアプローチは、単なる知識の習得に留まらず、学んだことを活用して実際に何かを生み出す力、つまり創造性や問題解決能力を育む上で効果的です。この記事では、小学校の理科単元と連携しながら、科学実験からものづくりへ繋げる具体的な授業実践のヒントをご紹介します。
科学実験と工学的なものづくりを組み合わせる意義
科学(Science)と工学(Engineering)は、STEAM教育の中核をなす分野です。科学が自然界の原理や法則を探求するのに対し、工学はそれらの知識を利用して社会に役立つものやシステムを設計・製作します。この二つを連携させることには、以下のような意義があります。
- 原理の深い理解: 実験で確認した科学的な現象が、どのようにものづくりに活かせるのかを考えることで、抽象的な原理が具体的な形として理解できるようになります。
- 問題解決能力の育成: 特定の機能を持つものを作るためには、様々な制約の中で最適な方法を考え、試行錯誤する必要があります。これは、現実世界の問題を解決するプロセスと共通しています。
- 探究心と創造性の向上: 実験結果をもとに「もっとこうしたらどうなるだろう?」と考えることが、新たな実験やものづくりへの意欲に繋がります。自分自身のアイデアを形にする経験は、創造性を刺激します。
- 実生活との関連付け: 科学的な原理が身の回りの製品や技術にどのように応用されているかを理解しやすくなり、学習内容がより身近に感じられます。
科学実験からものづくりへ繋げる実践ステップ
小学校の理科単元に沿って、科学実験ともづくりを連携させるための具体的なステップを提案します。
ステップ1:導入と課題設定
まず、単元のテーマに関する科学実験を行います。実験を通して子どもたちが興味を持った現象や、不思議に思った点を引き出します。次に、「この原理を使って、〇〇を解決するおもちゃや道具を作ってみよう」「この現象を応用して、もっと効果的に〇〇するにはどうしたら良いだろう?」のように、実験で得た学びを活かした「ものづくり」の課題を設定します。課題は具体的で、子どもの発達段階に合ったものにします。
(例)単元「ゴムや空気の力」:空気の力で物を動かす実験をした後、「空気の力を使って、遠くまで飛ばせるおもちゃを作ってみよう」といった課題を設定します。
ステップ2:科学実験の振り返りと原理の理解
実験でどのような結果が得られたか、なぜそのような結果になったのかを話し合い、科学的な原理や法則について理解を深めます。ものづくりの課題解決に必要な知識をここで確認します。
(例)空気を圧縮すると勢いよく吹き出すこと、その力が物を動かすことを確認します。
ステップ3:ものづくりの計画・設計
設定された課題を解決するために、どのようなものを作るか、どのような材料を使うか、どのように作るかの計画を立てます。簡単な設計図やアイデアスケッチを描くことも有効です。グループで話し合いながら、多様なアイデアを出し合います。
(例)段ボールやペットボトル、風船など身近な材料で、空気の力を使うおもちゃ(空気砲や風船ロケットなど)の構造を考え、簡単な設計図を書きます。
ステップ4:製作と試行錯誤(プロトタイピング)
計画に基づいてもづくりを行います。ここでは、一度で完璧なものを作るのではなく、まずは形にしてみて(プロトタイプ)、動かしてみて、うまくいかない点を改善していく(イテレーション)というプロセスが重要です。失敗から学び、工夫を重ねることを奨励します。
(例)設計図通りに空気砲を作ってみる。実際に飛ばしてみて、もっと遠くまで飛ばすにはどうしたら良いか、材料や構造を工夫する。
ステップ5:評価と改善
作ったものが課題を解決できているか、どのくらい効果があるかを評価します。自分たちなりに評価基準(例:どれだけ遠くまで飛んだか、どれだけ正確に狙えるかなど)を設け、客観的に判断することを促します。評価結果を踏まえ、さらに改良を加える活動も大切です。
(例)作った空気砲の飛距離を測定し、他のグループのものと比較する。どうすれば飛距離が伸びるかを考え、材料や構造を修正して再度試す。
ステップ6:発表と共有
完成した(または改良を重ねた)ものについて、どのような課題を設定し、どのような計画で、どのような工夫をしながら作ったのかを発表します。うまくいった点だけでなく、苦労した点やそこから学んだことを共有することで、学びが深まります。
小学校での実践例
小学校の様々な単元で、この「科学実験×ものづくり」のアプローチを取り入れることができます。
- 単元「電気の利用」:
- 実験:簡単な回路を作り、豆電球を点ける、モーターを回す。直列つなぎと並列つなぎの違いを調べる。
- ものづくり:電池と豆電球を使って、特定の場所(例:暗い箱の中、小さな家の模型)を明るく照らす照明装置を作る。スイッチを工夫する。直列と並列の利点を活かして、より明るく、あるいはより長時間点くように改良する。
- 単元「流れる水のはたらき」:
- 実験:水が流れる様子や、水の流れが土を削る様子を観察する。
- ものづくり:簡単な材料(段ボール、粘土、ビニールシートなど)で地形を作り、水の流れをコントロールする仕組み(例:ダム、水路、水車)を作る。土砂の流出を防ぐ方法を考える。
- 単元「てこのきまり」:
- 実験:てこを使って物を持ち上げる実験を行い、支点、力点、作用点の位置関係と力の大きさの関係を調べる。
- ものづくり:てこの原理を利用した簡単な道具(例:物を挟むトング、重い物を持ち上げるクレーン模型)を作る。より小さな力で重い物を動かせるように、てこの長さを工夫する。
これらの例のように、理科で学ぶ科学的な原理を具体的な「ものづくり」に落とし込むことで、子どもたちは知識を「使う」経験を積み、より主体的に学習に取り組むようになります。
実践上のポイント
- 身近な材料の活用: 高価な材料や特別な工具を使わず、段ボール、ペットボトル、ストロー、輪ゴム、洗濯ばさみなど、学校や家庭にある身近な材料を積極的に活用することで、コストを抑えつつ、子どもたちの発想を広げることができます。
- 安全性の確保: はさみやカッター、接着剤などの工具を使用する際は、安全な使い方を丁寧に指導し、教師の目の届く範囲で活動させます。
- 評価の観点: 最終的な成果物だけでなく、アイデア出し、計画、試行錯誤のプロセス、友達との協力の様子なども評価の対象とします。ワークシートに計画や気付きを記録させたり、活動中の様子を写真や動画で記録したりすることも有効です。
- 時間の使い方: 単元の導入で実験、中盤で原理の考察ともづくりの計画、終盤で製作と発表など、複数の時間に分けて実施することで、詰め込みすぎを防ぎ、探究の時間を確保できます。理科の時間だけでなく、図工や総合的な学習の時間など、他教科・領域と連携させることも検討します。
- 教師自身の試作: 事前に教師自身が子どもたちの視点で作ってみることで、難しさやつまずきやすい点、必要な材料や時間を把握することができます。
まとめ
科学実験と工学的なものづくりを組み合わせるアプローチは、小学校におけるSTEAM教育実践の強力な手段です。理科で学ぶ科学的な知識や原理を、ものづくりを通して実際に「使う」経験は、子どもたちの理解を深め、創造性や問題解決能力といった、これからの時代に求められる力を育みます。
身近な材料を活用し、試行錯誤のプロセスを大切にしながら、子どもたちが主体的に探究に取り組めるような授業をデザインしていくことが重要です。この記事でご紹介したステップや実践例が、先生方のSTEAM教育実践のヒントとなれば幸いです。