失敗から学ぶ!小学校STEAM教育で探究を深める実践アプローチ
STEAM教育における「失敗」の価値
小学校におけるSTEAM教育は、子どもたちが科学、技術、工学、芸術、数学といった様々な分野を横断的に学び、実社会の課題解決や創造的な表現に取り組むことを目指しています。このプロセスにおいては、教科書に書かれた正解をなぞるのではなく、自ら問いを立て、仮説を立て、試行錯誤を重ねることが不可欠です。
試行錯誤の過程では、計画通りにいかないこと、予想外の結果になること、つまり「失敗」がつきものです。しかし、STEAM教育において、この「失敗」こそが重要な学びの機会となります。失敗は、子どもたちに立ち止まって原因を分析し、新たな方法を考え出すきっかけを与えます。これは、粘り強さ(レジリエンス)、批判的思考力、問題解決能力といった、これからの時代に求められる非認知能力を育む上で非常に価値のある経験となります。
一方で、子どもたちが失敗を恐れ、挑戦をためらってしまうこともあります。特に小学校段階では、成功体験を積ませたいという教員の願いや、失敗することへのネガティブなイメージから、どのように「失敗」を扱えば良いか悩む先生方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、STEAM教育における失敗を肯定的に捉え、子どもたちの探究をさらに深めるための実践的なアプローチをご紹介します。
失敗を恐れない環境づくり
子どもたちが安心して挑戦し、たとえ失敗してもそこから学びを得られるようにするためには、教員が意図的に「失敗を歓迎する」学級・授業の雰囲気を作ることが重要です。
1. 失敗を「悪いこと」としない声かけ
授業中、子どもたちの試みがうまくいかなかったとき、「失敗だね」と否定的に捉えるのではなく、「ナイスチャレンジ!」「惜しかったね!」「どうしてうまくいかなかったのかな?」といった肯定的な言葉で応答しましょう。これは、結果よりも挑戦しようとしたプロセスそのものを称賛する姿勢を示すことにつながります。
2. 教員自身も完璧ではないことを示す
先生自身が過去の経験や、授業準備でのちょっとした「うまくいかなかったこと」を話すことも有効です。「先生も初めて〇〇を作ろうとしたときは、何度も失敗したんだよ」といったエピソードは、子どもたちに失敗は特別なことではない、むしろ成長のためのステップなのだというメッセージを伝えます。これは、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック氏が提唱する「成長型マインドセット(Growth Mindset)」を育む上でも重要です。
3. 成功だけでなく、失敗の過程も共有・称賛する
活動の発表の場などで、成功した作品だけでなく、うまくいかなかった試みや、そこから学んだこと、工夫した点なども共有する時間を設けることができます。他の友達の失敗談を聞くことで、自分の失敗も気にならなくなり、様々なアプローチや困難への立ち向かい方を学ぶことができます。
失敗から学びを深める実践アプローチ
具体的な授業の中で、失敗を学びへとつなげるためのステップを紹介します。
1. 立ち止まり、原因を分析する
うまくいかなかったとき、すぐに次の試みに移るのではなく、まずは「なぜうまくいかなかったのか?」を子ども自身が考える時間を設けることが重要です。 * 「どうしてこうなったんだと思う?」 * 「作ったものは、何が目的だったかな? その目的は達成できているかな?」 * 「どこかに問題があったとしたら、それはどこだろう?」
といった問いかけは、子どもたちが客観的に状況を捉え、問題点を特定する手助けとなります。友達同士で話し合うペアワークやグループワークを取り入れることも効果的です。
2. 学んだことを基に改善策を考える
原因が分析できたら、次に「どうすればうまくいくようになるか?」「次はどうやって試してみる?」といった改善策を考えます。 * 「さっき分かったことを踏まえて、次に変えてみたいところはある?」 * 「他に使える材料や方法は考えられるかな?」 * 「成功している友達のやり方で、何か参考にできそうなことはある?」
ここでは、一つの正解にたどり着くことよりも、様々な可能性を考え、いくつかの改善策を検討するプロセスを重視します。
3. 再び挑戦する(反復・改良)
改善策を考えたら、再び試みに挑戦します。STEAM教育におけるものづくりやプログラミングでは、この「作る→試す→失敗から学ぶ→改善する→また作る」という反復的なプロセスが非常に重要です。一度の失敗で諦めず、粘り強く取り組む姿勢を育みます。教員は、子どもたちが再挑戦しやすいように、活動時間を十分に確保したり、必要な材料やツールを準備したりといったサポートを行います。
評価への反映
STEAM教育における評価は、単に最終的な成果物の完成度だけでなく、探究のプロセスやそこでの学びを多角的に捉えることが求められます。失敗からの学びを評価に反映させることは、子どもたちの挑戦を促し、内省を深める上で有効です。
1. プロセスを記録する
活動中の子どもたちの様子を観察し、試行錯誤の過程や、失敗したときの反応、そこからどう立て直そうとしたかなどを記録しておきます。写真や動画、子どもたちの言葉のメモなども貴重な記録となります。
2. 振り返りを評価に含める
子どもたちが書いた振り返りシートやワークシート、ポートフォリオなども評価の対象とします。「活動を通して、うまくいったこと、うまくいかなかったことは何ですか?」「なぜうまくいかなかったのだと思いますか?」「そこから何を学びましたか?」「次に挑戦するとしたら、どんなことに気をつけたいですか?」といった項目を設けることで、子ども自身の内省を促し、失敗からの学びを自覚化させることができます。
3. 粘り強さや問題解決へのアプローチを評価する
最終的な成果が完璧でなくても、困難にぶつかったときに粘り強く取り組んだか、問題を分析し、改善しようと工夫したかといったプロセスにおける姿勢や能力を評価項目に加えることも検討します。これにより、子どもたちは結果だけでなく、努力や挑戦そのものが価値あることだと認識できるようになります。
まとめ
小学校におけるSTEAM教育において、「失敗」は避けるべきものではなく、子どもたちが深く学び、成長するための大切な機会です。教員が安全で肯定的な学びの場を提供し、失敗したときに適切な声かけで寄り添い、原因分析や改善策の検討をサポートすることで、子どもたちは失敗を恐れずに新たな挑戦に踏み出すことができるようになります。
失敗からの学びは、知識や技能の習得にとどまらず、困難に立ち向かう強い心や、創造的に問題を解決する力を育みます。ぜひ、日々のSTEAM教育の実践の中で、子どもたちの「ナイスチャレンジ!」を応援し、失敗を学びの糧とする経験を積み重ねていってください。