小学校STEAM教育で光を活かす:科学×技術×アートの実践例
はじめに:身近な「光」からSTEAM教育を始めよう
小学校の学習指導要領においても、光は理科を中心に多くの教科で登場する身近な現象です。この「光」というテーマは、科学的な探究だけでなく、技術(プログラミングや電子工作)、工学(ものづくり)、アート(表現)など、様々な分野と結びつけやすい、STEAM教育の実践に非常に適したテーマと言えます。
子どもたちは、光の色や明るさ、影の形など、日常的に光に関する様々な現象に触れています。これらの身近な疑問や興味を出発点として、科学的に探究し、技術を用いて表現する活動は、子どもたちの主体的な学びを促し、創造性や論理的思考力を育むことに繋がります。
本記事では、小学校で「光」をテーマにしたSTEAM教育を実践するための具体的なアプローチや授業アイデアについてご紹介します。
光をテーマにしたSTEAM教育の魅力
光をテーマにすることで、以下のような学びの可能性が広がります。
- 科学(Science): 光の直進、反射、屈折、吸収、分光、光の三原色、色の見え方、影の仕組み、明るさの計測など、多様な科学的概念を学ぶことができます。
- 技術(Technology): LEDや電球を使った回路工作、光センサーの利用、プログラミングによる光の制御(色、点滅パターン、明るさの変化など)といった技術的な要素を取り入れられます。
- 工学(Engineering): 光を使った作品や装置(例:影絵シアター、光センサーで動くもの、LEDイルミネーションなど)を設計・製作する過程で、問題解決や試行錯誤の経験を積むことができます。
- アート(Art): 光の色や明るさ、影などを活用した絵画、工作、デジタルアート、インスタレーションといった多様な表現活動が可能です。光の色や動きで感情やイメージを表現するなど、創造力を刺激します。
- 数学(Mathematics): 明るさのデータの収集・整理・分析、光の角度や反射・屈折に関する計算、図形と影の関係など、数学的な視点やスキルを活用する場面があります。
小学校での具体的な実践アイデア例
ここでは、小学校の各学年や発達段階に応じて取り入れやすい、具体的な活動例をいくつかご紹介します。
1. 光の性質を観察する(科学)
- 影の観察と記録: 太陽の光や電灯の光でできる影の形や大きさが、光源と物体の位置関係によってどのように変わるかを観察します。時間帯による太陽の影の変化を記録する活動は、理科の学習とも連携しやすいでしょう。影絵遊びを通して、光と影の関係を体感的に学びます。
- 光の進み方の観察: レーザーポインターや強いライトを使って、光がまっすぐに進む様子(直進)を観察します。水槽に少し牛乳などを混ぜて光の道筋を見やすくしたり、鏡を使って光を反射させたりする実験を行います。
- 光の色を分ける: プリズムや分光シートを使って、太陽光や電灯の光を虹色に分ける実験を行います。シャボン玉の膜が虹色に見える現象など、身近なところにある光の分解を探究します。
2. 光を「つくる」「動かす」体験(科学×技術×工学)
- 簡単な回路でLEDを光らせる: LED、抵抗、ボタン電池、ミノムシクリップなどを使って、簡単な回路を作り、LEDを光らせる活動です。極性があることや、適切な抵抗が必要であることを学びます。安全に配慮し、少ない部品で試せるキットなども活用できます。
- プログラミングで光を制御する: micro:bitなどのプログラミング教材を用いて、LEDの点滅パターンを変えたり、色を変えたりするプログラムを作成します。簡単な繰り返しや条件分岐のプログラムから始めることができます。音楽に合わせて光を変化させるなど、表現活動にも繋げられます。
- 光センサーで反応する仕組みを作る: micro:bitに搭載された光センサーや、外部の光センサーモジュールを使って、明るさの変化に応じてLEDを光らせたり、音を鳴らしたりする仕組みを作ります。周囲の明るさを測ってデータとして表示する活動も、データ活用の導入になります。
3. 光を使った表現活動(アート×技術×科学)
- 色光の三原色体験: 赤、緑、青のLEDライトを使い、光の三原色(加法混色)の原理を体験します。それぞれの光の当て方や強さを変えることで、様々な色を作り出すことができます。プログラミングでLEDの色を混ぜて、好きな色を作る活動も面白いでしょう。
- 光と影のアート: 身近な素材(紙、プラスチック、廃材など)を使って、光を当てたときにできる影の形や組み合わせを楽しむ作品を作ります。ライトの種類や角度を変えることで、影の表情が変わることを発見します。
- プログラマブルなイルミネーション: プログラミングで制御できるフルカラーLEDテープなどを使って、オリジナルのイルミネーション作品を制作します。パターン、色、動きなどを自由にデザインすることで、技術とアートを融合させた表現が可能です。
授業づくりのポイントと評価のヒント
- 問いの設定: 「どうすれば影を大きくできるかな?」「LEDの色はどうやって変えられるんだろう?」「光を使ってどんな楽しいものが作れるかな?」など、子どもたちの興味を引き出す具体的な問いを設定することが重要です。
- 段階的な活動: 最初は光を「見る」「観察する」といった科学的な探究から入り、次に簡単な回路で光を「つくる」、そしてプログラミングで光を「制御する」といった技術的な要素を加えていきます。最後に、これらの要素を組み合わせて「表現する」という流れで発展させると、子どもたちが無理なくステップアップできます。
- 身近な素材の活用: 電池や豆電球、段ボール、セロハン、アルミホイルなど、身近にある素材も光の実験や工作に大いに活用できます。高価な教材がなくても実践できるアイデアを工夫しましょう。
- 安全指導: 電気やハサミ、カッターなどを使う際には、安全指導を丁寧に行います。LEDに直接強い光を当てないなど、光に関わる安全にも配慮が必要です。
- 記録と振り返り: 活動の過程や発見したこと、作ったものを写真や動画、文章で記録する時間を設けます。活動後に子どもたち同士で作品を見せ合ったり、気づきや工夫した点を発表したりする時間を設けることで、学びを深められます。
- 評価: 作品の完成度だけでなく、探究の過程(観察の視点、実験や試行錯誤の方法)、技術の活用(プログラミングの工夫、回路の正確さ)、表現の意図や工夫、協働的な学びへの関わりなど、多角的な視点で子どもたちの学びを捉えるようにします。ルーブリックなどを活用するのも有効です。
まとめ:光の探究から生まれる学びの可能性
「光」をテーマにしたSTEAM教育は、子どもたちが科学の面白さに触れ、技術を学び、豊かな感性で表現する力を育むための素晴らしい機会を提供します。身近な現象であるからこそ、子どもたちは興味を持ちやすく、探究活動に入り込みやすいでしょう。
ご紹介したアイデアを参考に、先生方のクラスの子どもたちの興味や実態に合わせて、ぜひ「光」を使ったSTEAM教育に挑戦してみてください。科学的な発見から生まれる驚きと、技術を使ってイメージを実現する喜び、そして光で思いを表現する楽しさを、子どもたちと一緒に味わえることと思います。