小学校STEAM教育の低コスト実践法:身近な素材と工夫でできる授業アイデア
小学校でのSTEAM教育導入に関心をお持ちの先生方にとって、予算の確保はしばしば大きな課題となることがあります。高価な教材や専門的な設備がなければSTEAM教育はできないのではないか、と感じている先生もいらっしゃるかもしれません。しかし、STEAM教育の本質は、科学的なものの見方、技術の活用、工学的な思考、芸術的な感性、数学的な考察といった複数の分野を統合的に活用し、実社会の課題解決や新しい価値創造を目指す探究的な学びです。これは必ずしも高価なツールを必要とするものではありません。
本記事では、限られた予算の中でも小学校でSTEAM教育を実践するための具体的なアイデアや、身近な素材、既存の学校リソースを活用する方法について解説します。
低コストSTEAM実践の基本的な考え方
予算に制約がある中でSTEAM教育を実践する上で重要なのは、「ないものねだり」をするのではなく、「今あるものを最大限に活用する」という視点を持つことです。以下の点を意識することで、費用を抑えながら効果的な学びを提供できます。
- 身近な素材・廃材の活用: 段ボール、牛乳パック、ペットボトル、新聞紙、トイレットペーパーの芯、落ち葉や木の実などの自然物など、家庭や学校に日常的にあるものが素晴らしい教材になります。これらを活用することで、創造性や工夫する力を育むことができます。
- 既存の学校教材の再活用: 算数セットのブロック、理科の実験器具、図工室にある様々な道具や材料など、既存の教材をSTEAMの視点から見直し、新しい目的で活用します。
- 無料または安価なデジタルツールの活用: プログラミングツール(Scratchなど)、3Dモデリングツール(Tinkercadなど)、オンライン共同編集ツール(Google Workspaceなど)、プレゼンテーションツール、情報収集のためのウェブサイトなど、無料で利用できる質の高いデジタルリソースが豊富にあります。
- アナログな手法の活用: 高度なデジタルツールを使わなくても、ブレインストーミングのためのポストイット、アイデアをまとめる模造紙、手描きのスケッチや図解なども重要なSTEAM活動のツールです。
- 外部資源との連携: 保護者の方に廃材提供を呼びかけたり、地域の専門家(技術者、デザイナー、職人など)にゲストティーチャーをお願いしたり、地域の施設(工場、科学館、美術館、図書館など)を見学したりすることも、コストを抑えつつ学びを深める有効な手段です。(謝礼が発生しない範囲での協力や、無料で見学できる施設を選ぶなどの工夫が必要です)
身近な素材を活用した授業アイデア
具体的な授業例をいくつかご紹介します。
- 橋をかけよう(工学、算数、理科): 段ボールやストロー、紙コップなどの廃材のみを使って、指定された長さを持ち、一定の重さに耐えられる橋を設計・制作します。トラス構造やアーチ構造など、構造の工夫を学ぶことができます。必要なのは素材と、重さを測るものさしやおもり程度です。
- 風で動く車(理科、工学、図工): ペットボトルや段ボール、竹串、ビニール袋などで車体を作り、風の力で動かす車を制作します。帆の形や大きさ、車体の軽さなどを工夫し、どうすればより速く遠くまで進むかを実験します。理科の「風やゴムの働き」といった単元と連携しやすい活動です。
- 音の出る楽器作り(音楽、図工、理科): ゴム、空き缶、ストロー、水の入った容器などを使って、オリジナルの楽器を制作します。なぜ音が出るのか、どうすれば違う音程になるのかなどを探究し、理科の音の性質に関する学びや、音楽の表現活動と結びつけます。
既存教材やデジタルツールを活用したアイデア
学校にあるものや、無料・安価なデジタルツールを組み合わせることで、さらに多様な活動が可能になります。
- Scratchで動く絵本(プログラミング、国語、図工): 国語の時間に考えた物語や図工の時間に描いたキャラクターを元に、Scratchを使って動きや音をつけたデジタル絵本を制作します。プログラミング的思考だけでなく、物語構成力や表現力を養います。パソコンやタブレットがあれば追加の費用はかかりません。
- 地域の地図をデータ化しよう(社会、算数、情報): 自分たちの住む地域の地図を観察し、危険な場所や自然が多い場所などの情報を集めます。集めた情報をGoogle スプレッドシートなどのツールで整理し、Google My Mapsなどで地図上にマッピングして発表します。情報の収集、整理、分析、表現といったデータ活用の基礎を学べます。
- Tinkercadで未来の家をデザイン(図工、算数、総合): 環境に優しい家や、高齢者が暮らしやすい家など、テーマを決めてTinkercadで3Dモデルを制作します。簡単な操作で立体的なデザインができ、創造性や空間認識能力を育みます。完成したモデルをクラスで共有し、互いのアイデアについて話し合う活動も有効です。
授業実践における低コスト化の工夫
- 単元や活動の一部として取り入れる: 最初からSTEAM単元を丸ごと作るのではなく、既存の教科の単元の中で、探究的な活動やものづくりの要素を部分的に取り入れることから始めるのも良い方法です。
- 複数教科の時間を弾力的に使う: 例えば、理科で学んだ原理を元に、図工の時間で制作活動を行うなど、教科の時間を連携させることで、限られた時間の中でもまとまった探究活動を行いやすくなります。
- 成果発表を工夫する: 完成した制作物を廊下に展示したり、発表会をしたりするだけでなく、活動のプロセスを写真に撮って掲示する、簡単な説明文を添える、タブレットで動画を撮って共有するなど、コストのかからない方法で成果を共有できます。
低コストでも学びの質を保つために
教材費を抑えても、STEAM教育の質が損なわれないようにするためには、以下の点が重要です。
- 問いを明確にする: 子どもたちが何を探究するのか、どんな課題を解決するのか、といった「問い」が明確であること。これが探究の原動力となります。
- プロセスを重視する: 完成品の出来栄えだけでなく、子どもたちがどのように考え、試行錯誤し、協力して活動に取り組んだのかというプロセスを大切に評価します。
- 振り返りを大切にする: 活動を通して何を学び、何を感じたのか、次はどうしたいかなどを振り返る時間を設けることで、学びが定着し、次の探究に繋がります。
まとめ
小学校でのSTEAM教育は、必ずしも高額な設備や教材を必要とするものではありません。身近にある素材、既存の学校リソース、そして無料または安価で利用できるデジタルツールを組み合わせ、授業の進め方を工夫することで、予算の制約の中でも子どもたちの創造性、探究心、問題解決能力を育む豊かな学びを実現することができます。
「ない」に目を向けるのではなく、「ある」を最大限に活かす発想で、ぜひ一歩踏み出してみてください。子どもたちの柔軟な発想は、きっと先生が想像する以上の可能性を引き出してくれるはずです。