身近なものがコントローラーに?Makey Makeyを使った小学校STEAM授業実践ガイド
小学校でのSTEAM教育実践において、子供たちの創造性や探究心を刺激するツール選びは重要なポイントの一つです。数あるツールの中でも、身近な素材を活かして手軽にインタラクション(相互作用)を生み出せる「Makey Makey」は、小学校現場での導入に適した可能性を秘めています。
Makey Makeyは、ワニ口クリップを使って導電性のあるもの(果物、粘土、鉛筆の芯、人の肌など)をコンピュータのキーボードやマウスの代わりにするユニークなインターフェースキットです。特別な専門知識がなくても、直感的に「つなぐ」という行為を通じて、物理的な世界とデジタルの世界を結びつける体験ができます。
本記事では、Makey Makeyを小学校のSTEAM教育にどのように取り入れ、子供たちの学びを深めていけるのか、具体的な実践方法や授業設計のヒントをご紹介します。
Makey Makeyの仕組みと小学校での魅力
Makey Makeyは非常にシンプルな構造をしています。基板にはUSBコネクタがあり、これをパソコンに接続します。そして、基板上の入力端子(矢印キー、スペースキー、クリックなど)と「Earth(アース)」端子にワニ口クリップで導電性の物体をつなぎます。ユーザーがEarth端子につながったものに触れながら、別の入力端子につながったものに触れると回路が閉じ、対応するキー入力がパソコンに送られます。
この仕組みの最大の魅力は、プログラミングや電子工作の専門知識がなくても、身近な「もの」をコンピュータの入力装置に変えられる点にあります。小学校の子供たちにとって、「なぜバナナを触ると音が鳴るんだろう?」といった驚きや不思議さが、探究の出発点となります。
小学校での導入におけるメリットは以下の点が挙げられます。
- 手軽さ: 特別なソフトウェアのインストールは不要で、USB接続するだけですぐに始められます。
- 直感的: 「つなぐ」というシンプルな操作で、回路の基本原理(導通)を体験的に学べます。
- 創造性の刺激: 身近なあらゆるものを素材として活用できるため、子供たちの自由な発想を引き出します。
- プログラミング連携: Scratchなどのビジュアルプログラミングツールと連携しやすく、作ったものに動きや音をつけることで、表現の幅が大きく広がります。
- 低コスト: 他のロボット教材などに比べて比較的導入コストを抑えられます。
Makey Makeyを活用した小学校STEAM授業の実践例
Makey Makeyは、様々な教科や領域と連携させながらSTEAM教育を実践するのに適しています。いくつかの実践例をご紹介します。
事例1:音楽と図工、プログラミングの連携 - 「触れる楽器づくり」
- 概要: 子供たちが身近な導電性の素材(果物、野菜、アルミホイルを巻いた段ボール、粘土など)を使ってオリジナルの楽器を作り、Makey MakeyとScratchを連携させて演奏します。
- 実践ステップ:
- 計画・デザイン: どのような楽器を作るか、どの素材を使うかを考える。どのような音を鳴らしたいか、Scratchでどんなプログラムを作るかイメージする。
- 制作(図工・技術): 素材を加工して楽器の形を作る。Makey Makeyをつなぐための接点(ボタンや鍵盤となる部分)を工夫する。
- 接続(理科・技術): Makey MakeyのEarth端子と楽器に触れる手(または体の一部)、そして各入力端子と楽器のボタンや鍵盤部分をワニ口クリップで接続する。
- プログラミング(算数・情報): Scratchで、Makey Makeyからの入力(特定のキーが押されたとき)に対応する音を鳴らすプログラムを作成する。複数の音を用意して、和音やメロディーが演奏できるように工夫する。
- 発表・演奏(音楽・国語): 作った楽器やプログラムの工夫を発表し、実際に演奏してみる。友達の楽器を演奏したり、複数の楽器で合奏したりすることもできます。
- 学びのポイント: 導電性・非導電性の性質理解、回路の基礎体験、素材の加工・造形、 Scratchでのイベント処理・音のプログラミング、創造的な表現、協働的な活動。
事例2:国語や図工、プログラミングの連携 - 「インタラクティブな物語・ゲームづくり」
- 概要: 物語の登場人物や場面、あるいは簡単なゲームのコントローラーを身近な素材で作成し、Makey MakeyとScratchを連携させて、触れると物語が進んだり、キャラクターが動いたりするインタラクティブ作品を作ります。
- 実践ステップ:
- 計画・デザイン(国語・図工): どのような物語やゲームにするか、主要な要素(登場人物、選択肢、障害物など)を考え、それぞれの要素をどのような素材で表現するかを決める。
- 制作(図工): 物語の登場人物や背景、ゲームのボタンなどを導電性の素材や、導電性を持たせた素材(アルミホイルや導電性インクなど)を使って制作する。
- 接続(技術): Makey Makeyの入力端子と、制作物の中のインタラクションさせたい部分(例:登場人物の絵、選択肢のボタン)を接続する。
- プログラミング(情報・算数): Scratchで、Makey Makeyからの入力に応じて、画面上のキャラクターを動かしたり、セリフを表示したり、場面を切り替えたりするプログラムを作成する。
- 発表・体験(国語・情報): 作成したインタラクティブ作品を発表し、友達に体験してもらう。作品の意図や工夫した点を説明する。
- 学びのポイント: 物語の構成、キャラクター設定、素材の活用、Scratchでの条件分岐・イベント処理、創造的な表現、情報伝達の工夫。
Makey Makey授業設計・実施のポイント
小学校の限られた時間や環境の中でMakey Makeyを活用した授業を成功させるためには、いくつかのポイントがあります。
- 事前の準備: Makey Makeyの基本的な使い方(パソコンへの接続、ワニ口クリップの使い方、導電性の確認方法など)を先生自身が十分に理解しておくことが大切です。子供たちが使う素材も、授業でスムーズに使えるように事前にいくつか用意しておくと良いでしょう。
- 安全性の確保: 電気はごくわずかですが、万が一に備え、感電の危険がないことを説明し、水気の近くでの使用を避けるなど、基本的な安全指導を行います。Makey Makey自体は安全に配慮した設計がされています。
- 導電性の確認: 子供たちが選んだ素材が導電性があるか、事前にテスターやMakey Makeyを使って簡単に確認する方法を教えると、詰まりを防げます。アルミホイルや粘土、鉛筆の芯などは比較的確実に使えます。
- Scratch連携のレベル: Scratchのプログラミングは、子供たちの習熟度に合わせて難易度を調整します。最初は「キーを押したら音を鳴らす」といったシンプルなプログラムから始め、慣れてきたら複数の音や動きを組み合わせるなど、段階的に発展させましょう。テンプレートプロジェクトを用意しておくのも有効です。
- グループワーク: Makey Makeyの台数には限りがある場合が多いため、グループでの活動が中心となります。役割分担(デザイナー、エンジニア、プログラマーなど)を促し、協働して一つの作品を完成させるプロセスを重視します。
- 片付け: ワニ口クリップや素材などが散乱しやすいので、授業の最後にしっかりと片付ける時間を設けることを忘れないようにします。
Makey Makeyを活用した学びの評価ヒント
STEAM教育における評価は、知識の習得だけでなく、プロセスや資質・能力の育成に焦点を当てることが重要です。Makey Makeyを使った活動では、以下のような観点で子供たちの学びを評価できます。
- 創造性・発想力:
- 身近な素材をどのように作品に取り入れたか。
- 作品のアイデアやデザインにオリジナリティがあるか。
- 予想外の素材や使い方を発見したか。
- 問題解決能力・工夫する力:
- 素材の導電性や接続の問題にどのように対応したか。
- Scratchでのプログラミングにおいて、思った通りに動かない原因を考え、修正できたか。
- より良くするためにどのような工夫を凝らしたか。
- 技術的な理解:
- Makey Makeyの基本的な仕組み(導通で回路が閉じること)を理解できたか。
- Scratchでのプログラムが、Makey Makeyの入力とどのように連動しているか理解できたか。
- 協働性:
- グループ内で役割分担し、協力して活動できたか。
- 他のメンバーの意見を尊重し、アイデアを出し合えたか。
- 表現力・発表力:
- 作成した作品について、アイデアや工夫した点を言葉で説明できたか。
- 友達に作品を体験してもらい、フィードバックを得ようとしたか。
これらの観点を踏まえ、作品そのものだけでなく、活動中の子供たちの様子、話し合いの内容、振り返りシートなどを組み合わせて評価を行うことが推奨されます。
まとめ
Makey Makeyは、小学校の子供たちがプログラミングや電子工作の入り口に手軽に触れながら、STEAMの様々な要素を横断的に学ぶことができる強力なツールです。身近な素材を使うことで、物理世界とデジタル世界が繋がる面白さを実感し、何気ないものから新しい価値を生み出す創造的な経験を積むことができます。
導入のハードルが比較的低く、Scratchとの連携も容易なため、小学校現場でのSTEAM教育実践の一歩として、Makey Makeyを活用してみてはいかがでしょうか。本記事で紹介した事例やポイントが、皆様の授業づくりの参考になれば幸いです。