PBLを取り入れた小学校STEAM授業:探究を深める実践ステップとポイント
STEAM教育とPBL(問題解決型学習)の連携
学校教育において、子供たちが主体的に学び、未知の課題に対して創造的に取り組む力の育成が求められています。STEAM教育は、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)を横断的に学び、実社会の問題解決に繋げることを目指す教育アプローチです。このSTEAM教育をより深く、探究的な学びとして展開するための有効な手法の一つが、PBL(Problem-Based Learning:問題解決型学習)です。
PBLは、現実世界に関連した複雑な問いや課題を出発点とし、その解決に向けて学習者自身が主体的に知識やスキルを獲得していく学習方法です。STEAM教育の「実社会の問題解決」という側面とPBLの「現実の課題を解決する」というアプローチは非常に相性が良く、連携させることで子供たちの探究心や創造性をより一層引き出すことが期待できます。
小学校の先生方の中には、STEAM教育にPBLを取り入れたいと考えているものの、「どのような課題を設定すれば良いのか」「授業をどのように進めれば良いのか」「評価はどうすれば良いのか」といった具体的な方法に悩まれている方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、小学校でのSTEAM×PBLの実践に向けたステップとポイントについて解説します。
なぜ小学校STEAM教育にPBLを取り入れるのか
小学校におけるSTEAM教育にPBLを取り入れることには、いくつかの大きなメリットがあります。
- 主体性と探究心の育成: PBLは、あらかじめ答えが決まっていない「問い」から始まります。子供たちは、その問いに対する答えを見つけるために、自ら情報を集め、試行錯誤し、解決策を考え出します。このプロセスを通して、主体的に学ぶ力や未知への探究心が育まれます。
- 知識・スキルの有機的な結合: PBLでは、特定の教科の枠にとらわれず、課題解決に必要な様々な知識やスキル(算数的な思考、理科の知識、ものづくりの技術、表現力など)を必要な時に、必要な形で学び、活用します。これはSTEAM教育の目指す教科横断的な学びそのものです。
- 思考力・判断力・表現力の向上: 課題に対して多様な角度から考え、複数の情報を比較検討し、自分なりの解決策を構築する過程は、高度な思考力を養います。また、自分の考えや解決策を他者に分かりやすく伝える経験は、表現力の向上に繋がります。
- 協働する力の育成: 多くの場合、PBLはグループで取り組むことでより効果を発揮します。友達とアイデアを出し合い、役割分担をし、協力して一つの目標に向かう経験は、他者と協働するコミュニケーション能力や社会性の育成に不可欠です。
これらの力は、予測困難な未来社会を生き抜く子供たちにとって、非常に重要な資質・能力と言えます。
小学校でのSTEAM×PBL実践ステップ
小学校でSTEAM教育にPBLを取り入れる際の一般的なステップをご紹介します。これはあくまで一例であり、課題の内容や児童の実態に応じて柔軟にアレンジすることが重要です。
ステップ1:魅力的な「問い」や「課題」を設定する
PBLの成否を分ける最も重要なステップです。子供たちの興味・関心を引きつけ、探究心をかき立てるような「本物の問い」や「現実世界の課題」を設定します。
- ポイント:
- 子供たちの身近な生活や地域、社会の出来事に関連したテーマを選ぶと、自分ごととして捉えやすくなります。
- 答えが一つに定まらない、多様な解決策が考えられるようなオープンエンドな問いが良いでしょう。
- 理科、算数、図工、技術、情報など、複数の領域の知識やスキルを活用する必要がある課題設計を意識します。
- 例:「どうすれば、僕たちの学校の休み時間をもっと楽しくできるだろう?」「地域のゴミ問題を解決するにはどうしたら良いだろう?」「教室をもっと快適な空間にするには?」
ステップ2:探究・調査・アイデア出し
設定された問いや課題に対して、解決に必要な情報や知識を得るために、子供たちは自ら探究活動を行います。
- ポイント:
- インターネットでの情報収集、書籍や資料での調査、実験、観察、アンケート、専門家へのインタビューなど、様々な方法が考えられます。
- 得られた情報を整理し、課題の原因や背景、解決のヒントとなる知見を抽出します。
- グループで自由にアイデアを出し合い、共有する時間を設けます(ブレインストーミングなど)。この段階では、突飛なアイデアでも否定せず、多様な発想を奨励することが大切です。
ステップ3:解決策の立案と創造・制作
集めた情報やアイデアをもとに、課題解決に向けた具体的な方法を考え、形にしていきます。
- ポイント:
- 話し合いを通して、どのアイデアを採用するか、どのように実現するかを具体的に検討します。
- 解決策を模型、プロトタイプ、プログラム、プレゼンテーション資料、パフォーマンスなど、具体的な形として表現します。
- この段階で、必要な技術やツール(プログラミングツール、3Dプリンター、電子工作キット、タブレット端末など)の使い方を学び、活用することがSTEAMの要素を深めます。
- 試行錯誤は当たり前です。うまくいかない経験から学び、改善を繰り返すプロセスを大切にします。
ステップ4:発表・共有・振り返り
完成した解決策や成果を他者(クラスメイト、他の学年、保護者、地域の人々など)に発表し、共有します。そして、一連の活動を振り返り、学びを深化させます。
- ポイント:
- 発表の方法は多様に考えられます(口頭発表、ポスターセッション、展示、動画発表、Webページ作成など)。効果的に伝えるための表現方法を工夫させます。
- 発表後には、質疑応答の時間を設けたり、相互にフィードバックし合ったりする機会を作ると、多角的な視点が得られます。
- 活動全体を通して、「何が分かったか」「何ができるようになったか」「難しかったことは何か」「次に活かせることは何か」などを個人やグループで振り返る時間を必ず設けます。これは学びを定着させ、次の探究活動への意欲に繋がります。
小学校でのSTEAM×PBL実践におけるポイントと評価の視点
小学校でSTEAM×PBLを効果的に実践するためには、いくつかのポイントがあります。
- 教員の役割: 教員は知識を一方的に教えるのではなく、「学習のファシリテーター(支援者)」としての役割が中心となります。子供たちが自ら学びを進められるように、適切な問いかけをしたり、必要な情報源やツールを紹介したり、躓いている箇所をサポートしたりします。答えを直接教えるのではなく、ヒントを与え、子供たちが自分で気づけるように導くことが重要です。
- 時間の確保と柔軟な計画: PBLは探究に時間がかかる場合があります。単元をまたいだり、総合的な学習の時間や各教科の時間を横断的に活用したりするなど、柔軟な授業計画が必要です。また、探究の途中で思わぬ方向に進むこともありますので、ある程度の時間的余裕を持たせておくことが望ましいでしょう。
- グループ編成とサポート: グループで取り組む場合は、子供たちの特性や能力が多様になるように配慮して編成することが有効です。グループ内で意見が対立したり、活動が進まなかったりした際には、教員が介入し、話し合いを促したり、役割分担の見直しをサポートしたりします。
- 教材・ツールの選定: 課題解決に必要な教材やツールは、子供たちの発達段階や学校の設備状況に合わせて適切に選定します。身近にある素材から、プログラミングツール、タブレット端末、センサー類など、多様な選択肢があります。新しいツールを導入する際は、事前に先生自身がある程度使い方を習得しておくことが安心に繋がります。
- 評価の視点: PBLにおける評価は、最終的な成果物だけでなく、探究のプロセス全体を重視することが大切です。
- プロセス評価: 課題に対する関心度、情報の収集・整理・分析の方法、アイデアの発想力、試行錯誤の様子、グループでの協働の様子、振り返りの質などを観察したり、ポートフォリオ(活動の記録)を活用したりして評価します。
- 成果物評価: 解決策の創造性、課題解決への妥当性、表現方法の工夫、発表内容の分かりやすさなどを評価します。
- 自己評価・相互評価: 子供たち自身が自分の学びや友達の貢献を振り返り、評価する機会を設けることも、学びを深める上で有効です。
- 特定の知識やスキル(例:プログラミングの特定コマンドが使えるか)についても、必要に応じて評価に含めます。
まとめ
PBLは、小学校におけるSTEAM教育を、より深く、子供たちの主体的な探究に基づいた学びへと発展させる強力な手法です。魅力的な問いの設定、子供たちの主体性を引き出すファシリテーション、そしてプロセスを重視した評価が鍵となります。
初めてPBLを取り入れる際は、小さなテーマや身近な課題から始めてみることをお勧めします。子供たちの「知りたい」「作りたい」「解決したい」という内発的な動機を引き出し、探究するプロセスそのものを楽しむ経験を提供することで、子供たちの未来を生き抜く力を育んでいくことができるでしょう。この記事が、先生方のSTEAM×PBLの実践に向けた一助となれば幸いです。