算数と図工を連携させる小学校STEAM授業:具体例と実践のポイント
算数と図工連携によるSTEAM教育の可能性
STEAM教育は、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の各分野を横断的に学ぶことを目指す教育アプローチです。小学校においては、これらの要素を既存の教科の中でどのように連携させていくかが重要な課題となります。特に、論理的思考を養う算数と、創造性や表現力を育む図工は、STEAM教育を実践する上で連携させやすい教科と言えます。
算数で学ぶ図形の性質や規則性、測定や計算のスキルは、図工における立体表現やデザイン、構造物の制作に直接的に活かすことができます。また、図工での具体的な造形活動や表現活動は、算数の抽象的な概念を感覚的に捉え、理解を深める手助けとなります。このように、算数と図工を連携させることで、子どもたちは知識やスキルを単独の教科としてではなく、相互に関連付けながら、より実践的で創造的な学びを体験することができます。
算数と図工連携のSTEAM授業の考え方
算数と図工を連携させたSTEAM授業を計画する際には、まず教科横断的な学習目標を設定することが重要です。例えば、「図形の性質を理解し、それを用いて美しく安定した構造物を作る」「規則性を発見し、それを応用してオリジナルの模様をデザインする」といった目標が考えられます。
次に、子どもたちの興味を引きつけ、算数と図工の学びが自然に結びつくようなテーマや課題を設定します。身近な生活や自然の中にある造形物、歴史的な建築物、あるいは未来の都市デザインなど、様々な切り口が考えられます。テーマ設定に際しては、単に知識を詰め込むだけでなく、子どもたちが自ら課題を発見し、解決に向けて探究する過程を重視することが望ましいでしょう。
具体的な授業実践例
ここでは、算数と図工を連携させたSTEAM授業の具体的な実践例を二つご紹介します。
例1:美しい橋を設計・制作しよう
この授業では、算数で学ぶ長さ、角度、図形の性質、簡単な構造の安定性といった知識と、図工で培うデザイン力、表現力、造形スキルを組み合わせて、強度と美しさを兼ね備えた橋の模型制作に取り組みます。
- テーマ設定の意図: 算数の図形・構造の学習を、具体的な「ものづくり」という図工の活動と結びつけ、実生活における構造物の仕組みに関心を持たせる。工学的な視点や芸術的な視点を養う。
- 学習のステップ例:
- 導入(課題提示): 世界の様々な橋の写真を見せ、その形や構造の多様性、美しさについて話し合います。「もし、自分たちの学校に新しい橋を架けるとしたら、どんな橋が良いだろう?」と問いかけ、課題を設定します。
- 探究(算数・工学・科学): 橋の基本的な構造(アーチ橋、吊り橋、トラス橋など)について調べ、それぞれの特徴や安定性の秘密を学びます。簡単な実験を通して、どのような形の組み合わせが強度を増すのかを体験的に理解します(例:紙を折って柱の強度を比べるなど)。算数で既習の図形の性質(三角形の安定性など)を確認します。
- 設計(算数・図工・数学・芸術): どのような構造にするか、どのような形・色にするか、材料をどうするかなどを考え、設計図を作成します。この際、算数で学んだ測定の知識を使って縮尺を考えたり、図工で学んだ表現方法を活かしてデザインを具体化したりします。グループでアイデアを出し合い、協力して設計を進めます。
- 制作(図工・技術・工学): 設計図に基づき、割り箸や段ボール、紙コップなどの身近な素材や、必要に応じて接着剤、カッターなどを使って橋の模型を制作します。算数で学んだ長さや角度を正確に測るスキルや、図工で学んだ材料の扱い方、接着や組み立ての技術を応用します。
- 発表・評価: 完成した橋を発表し、設計のポイントや工夫した点、制作過程で難しかったことなどを説明します。他のグループの橋を見て、構造やデザインについて意見交換を行います。強度を試す簡単なテスト(例:おもりを乗せてみる)を行い、設計と結果を比較することも有益です。評価は、完成した橋の強度やデザインだけでなく、設計の考え方や制作過程での工夫、グループでの協力といったプロセスも重視します。
例2:オリジナルの幾何学模様タイルを作ろう
この授業では、算数で学ぶ図形の性質(対称、合同、相似)、規則性、敷き詰めなどを活用し、図工の技法(版画、スタンプ、貼り絵など)を用いてオリジナルの模様タイルやそれらを組み合わせたタペストリーなどを制作します。
- テーマ設定の意図: 算数の抽象的な図形や規則性の概念を、図工の具体的なデザイン・制作活動と結びつけ、数学的な美意識やデザインの原理を学ぶ。
- 学習のステップ例:
- 導入(課題提示): 世界の様々な幾何学模様(イスラム建築のタイル、日本の伝統的な文様、万華鏡のパターンなど)を紹介し、その美しさや規則性について話し合います。「もし、自分たちの教室の壁を飾るタイルを作るとしたら、どんな模様が良いだろう?」と問いかけ、課題を設定します。
- 探究・設計(算数・図工・数学・芸術): 算数で学んだ正多角形や線対称、点対称、回転移動などの知識を振り返り、それらがどのように模様に使われているかを発見します。方眼紙などを使って、基本的な図形を組み合わせたり、移動や回転を繰り返したりしながら、オリジナルの模様のパターンをデザインします。敷き詰められるタイルにするためにはどのような形が良いか、どのような規則性を持たせれば美しいかなどを、算数の知識を活かして考えます。図工で学ぶ色彩の知識を加え、色使いも検討します。
- 制作(図工・技術): デザインしたパターンを元に、版画板やスタンプ、切り絵などの技法を選んでタイルを制作します。図工で学んだ材料や道具の安全な使い方、表現技法を駆使します。同じパターンを複数制作し、並べ方によって全体の模様がどのように変化するかを試すことも学びになります。
- 発表・鑑賞: 完成したタイルやそれらを組み合わせた作品を発表し、デザインの意図や算数的な工夫(例:対称性、規則性)、制作過程で工夫した点などを説明します。互いの作品を鑑賞し、どのような数学的な要素が使われているか、どのような点が美しいかなどを意見交換します。
実践におけるポイント
算数と図工を連携させたSTEAM授業を効果的に行うためには、いくつかのポイントがあります。
- 授業時間の確保と工夫: 教科の時間を跨いだ連携となるため、十分な授業時間を確保することが課題となる場合があります。単元として計画し、算数の時間を数時間、図工の時間を数時間というように連続させたり、それぞれの授業で導入や一部の活動を行い、総合的な学習の時間や放課後などを活用して制作時間を設けたりするなど、弾力的な時間割編成を検討することが有効です。
- 教材・ツールの選定: 高価な専用教材がなくても、身近にある段ボール、紙、割り箸、粘土、絵の具、クレヨンなどで十分実践可能です。また、タブレット端末やPCを活用し、ScratchやViscuitなどのプログラミングツールで幾何学模様のアニメーションを作成したり、デザインツールで設計図を描いたりすることも、児童の関心やスキルに応じて取り入れることができます。大切なのは、目的とする学びが深まる適切なツールを選ぶことです。
- 評価方法: 算数と図工、そしてSTEAMの要素をどのように評価するかが難しい点です。知識・技能の理解度だけでなく、探究のプロセス、創造性、問題解決能力、他者との協働といった側面も評価の対象とすることが重要です。作品の完成度だけでなく、アイデア出しの過程を記録したノートや、グループでの話し合いの様子、発表での説明などを観察・記録し、多角的に評価することを検討してください。
- 教員間の連携: 算数科と図画工作科の教員間で事前に十分に連携し、単元のねらいや内容、評価方法について共通理解を図ることが成功の鍵となります。互いの専門性を活かし、協力して指導にあたることで、より質の高い学びを提供できます。
まとめ
算数と図工の連携は、小学校におけるSTEAM教育の実践において非常に有効なアプローチの一つです。子どもたちは、論理的な思考力と豊かな創造性を同時に働かせながら、ものづくりを通して学びを深めることができます。ご紹介した実践例やポイントが、先生方が日々の授業の中でSTEAM教育を取り入れるための一助となれば幸いです。教科の枠を超えた学びの楽しさを、ぜひ子どもたちと一緒に体験してください。