ビジュアルプログラミングを活用した小学校STEAM授業:Scratchでの実践例
小学校段階におけるSTEAM教育の実践は、子供たちの探究心や創造性を育む上で非常に重要です。特に、技術分野へのアプローチとして、ビジュアルプログラミングツールの活用は有効な手段の一つと言えます。この記事では、小学校教諭の皆様が比較的導入しやすいビジュアルプログラミングツール「Scratch」を用いたSTEAM授業の実践方法や、他教科との連携例について具体的に解説します。
STEAM教育におけるビジュアルプログラミングの位置づけ
STEAM教育は、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の各分野を横断的・統合的に学び、実社会の課題解決や新たな価値創造を目指す学習アプローチです。この中で、TechnologyやEngineeringの要素に触れるための強力なツールとなるのがプログラミングです。
小学校で主に導入されているビジュアルプログラミングは、コードを直接記述するのではなく、ブロック形状の命令を組み合わせてプログラムを作成する方法です。視覚的に分かりやすく、直感的な操作が可能であるため、プログラミングの初心者である子供たちにとって学習ハードルが低いという特長があります。
特にScratchは、世界中で広く利用されており、豊富な教材やコミュニティが存在します。無料で使用でき、特別な機材がなくてもPCやタブレットがあれば始められるため、小学校での導入に適しています。Scratchを使うことで、子供たちは試行錯誤しながら自分のアイデアを形にし、その過程で論理的思考力や問題解決能力を自然と養うことができます。これはまさに、STEAM教育が目指す資質・能力の育成に繋がるものです。
Scratchを用いた小学校STEAM授業の実践例
ここでは、Scratchを活用した具体的なSTEAM授業のアイデアをいくつかご紹介します。既存の教科内容と関連付けることで、授業時間の確保や単元構成の悩みを軽減できる可能性があります。
1. 理科×Technology/Engineering:自然現象のシミュレーションと探究
- テーマ例: 「植物の成長をプログラミングで表現しよう」「光や音の性質をアニメーションで学ぼう」
- 実践内容:
- 子供たちが観察した植物の成長過程を、スプライト(キャラクター)の大きさを変えたり、コスチューム(見た目)を変化させたりするプログラムで表現します。成長に必要な条件(水、光など)をプログラムに組み込むことで、条件と変化の関係性を視覚的に理解させることができます。
- 光の反射や屈折、音の波などをシンプルなアニメーションとして作成します。現象の原理を理解し、それをどのようにプログラムで表現するかを考える過程で、科学的概念への深い理解と工学的な思考を促します。
- ポイント: 科学で学んだ法則や概念を、Technology(プログラミング)を使って「実現」してみるという流れが効果的です。予測と結果の比較を通じて探究活動に繋げられます。
2. 算数×Technology/Mathematics:図形描画と計算プログラム
- テーマ例: 「正多角形を描くプログラムを作ろう」「計算ドリルをゲームにしよう」
- 実践内容:
- Scratchの「ペン」機能を使って、正方形や正三角形、さらには星形などの図形を描くプログラムを作成します。図形の角度や辺の長さ、繰り返しの概念をプログラムのブロック操作と関連付けて学びます。算数で学んだ角度や辺の性質が、どのように図形が描かれるかに直結することを体験的に理解できます。
- ランダムな数字を使った足し算や引き算の問題を提示し、正誤判定を行うシンプルな計算ドリルゲームを作成します。プログラムの変数や条件分岐の概念に触れながら、算数の基礎計算を復習できます。
- ポイント: 算数の抽象的な概念(角度、座標、変数など)を、Scratchの具体的な動きや機能と結びつけることで、理解を深めることができます。
3. 図工/音楽×Art/Technology:インタラクティブアートとサウンドクリエーション
- テーマ例: 「動き出す絵を作ろう」「オリジナル楽器をプログラミングしよう」
- 実践内容:
- Scratchで描いた絵や、読み込んだ画像に動きや音を加えるプログラムを作成します。マウスの動きに反応して絵が変化したり、特定の場所をクリックすると音が鳴ったりするなど、インタラクティブな作品制作を通じて、芸術的な表現と技術を融合させます。
- キーボードのキーを押すと特定の音が鳴る、複数の音を組み合わせて簡単なメロディーを作るなど、音をプログラムで制御する活動を行います。音楽の基礎(音階、リズム)とプログラミングを組み合わせた創作活動です。
- ポイント: 子供たちの自由な発想や創造性を最重視し、それを実現するための手段としてプログラミングを活用します。完成した作品を発表し合うことで、表現力やプレゼンテーション能力も育成できます。
STEAM授業としてのScratch実践のヒント
- 既存単元との連携: 新たに時間を確保するのが難しい場合は、既存の理科や算数、図工、総合的な学習の時間などの単元の中で、Scratchを活用できる部分を探します。例えば、理科の単元のまとめとして、学習内容をScratchで表現する時間を設けるなどです。
- 課題解決型のアプローチ: 「〜なものを作ってみよう」と具体的なテーマや課題を与え、子供たちが自ら考え、試行錯誤しながらプログラムを完成させるように促します。答えが一つではない課題設定が、探究心を刺激します。
- ペアワークやグループワークの推奨: 友達と協力して一つの作品を作ることで、コミュニケーション能力や協働する態度が育まれます。分からないことを教え合ったり、互いのアイデアを組み合わせたりする中で、より深い学びに繋がります。
- 評価の柔軟性: 完成したプログラムの「正しさ」だけでなく、課題解決へのアプローチ、試行錯誤のプロセス、創造性、表現方法、友達との協力など、STEAM教育で育成したい多角的な視点から子供たちの取り組みを評価することが重要です。
まとめ
Scratchのようなビジュアルプログラミングツールは、小学校におけるSTEAM教育を実践するための強力かつ身近な手段です。プログラミング教育必修化を経て、多くの小学校教諭の皆様がScratchに触れる機会を得ていることと思います。
この記事で紹介した例はあくまで一例です。先生方のアイデア次第で、Scratchを活用したSTEAM授業の可能性は無限に広がります。まずは小さな一歩として、既存の授業の中にScratchを取り入れてみることから始めてみてはいかがでしょうか。子供たちが楽しみながら学び、未来を生き抜くために必要な資質・能力を育むために、ぜひビジュアルプログラミングをSTEAM教育の一環としてご活用ください。