小学校STEAM教育で培う確かな見方・考え方:批判的思考力を養う実践ヒント
はじめに
STEAM教育は、子どもたちが主体的に探究し、実社会の課題解決に取り組む過程を通じて、様々な資質・能力を育むことを目指しています。このプロセスにおいて、多様な情報や状況を適切に理解し、根拠に基づいて判断する力、すなわち「批判的思考力」は不可欠な要素となります。
本記事では、小学校の先生方が、日々のSTEAM教育の実践を通して、子どもたちの批判的思考力をどのように育むことができるのか、具体的な指導のポイントや授業でのヒントをご紹介します。
STEAM教育における批判的思考力の重要性
「批判的思考力」と聞くと、何かを否定する力だと誤解される sometimes ことがありますが、そうではありません。批判的思考力とは、与えられた情報や状況を鵜呑みにせず、様々な角度から検討し、その信頼性や妥当性を評価した上で、自分自身の考えや判断を形成する力です。
STEAM教育においては、子どもたちは「なぜそうなるのだろう」「どうすれば解決できるだろう」といった問いから出発し、情報収集、分析、試行錯誤、表現といったプロセスを進めていきます。この過程で、以下のような場面で批判的思考力が求められます。
- 集めた情報が本当に正しいか、他の情報と比較検討する。
- 問題に対する複数の解決策を考え、それぞれの長所・短所を比較評価する。
- 自分の考えや他者のアイデアに対して、「なぜそう考えたのか」「その根拠は何か」と問い直す。
- 失敗の原因を探り、改善策を論理的に導き出す。
- 作り上げたものや表現したことについて、意図や効果を客観的に振り返る。
これらの思考プロセスは、探究を深め、より創造的で論理的な問題解決へと繋がります。
小学校段階で批判的思考力を育む指導のポイント
小学校段階の子どもたちに批判的思考力を育むためには、専門的な訓練というよりも、日々の学習活動の中に自然に取り入れられる問いかけや環境づくりが重要です。
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「なぜ?」「どうして?」を大切にする問いかけ: 先生からの「なぜそう思うの?」「どうしてその方法を選んだの?」といった問いかけは、子どもたちが自分の考えの根拠を意識するきっかけになります。また、「他に方法はなかったかな?」「もし〇〇だったらどうなるかな?」といった問いは、多様な視点を持つことを促します。
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情報の多様性を提示し、比較を促す: 一つのテーマについて、教科書だけでなく、図鑑、インターネット、インタビューなど、複数の情報源に触れる機会を作ります。「この情報とこの情報、同じことを言っているかな?違うところはあるかな?」など、比較検討する視点を示します。
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根拠や理由を尋ねる習慣をつける: 子どもたちが何かを発表したり、意見を言ったりした際に、「そう考えたのはどうして?」と優しく尋ねる習慣をつけます。これは、自分の発言に責任を持ち、論理的に説明する力を養います。
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間違いや失敗を学びの機会とする: 予想が外れたり、うまくいかなかったりした時こそ、批判的思考力を働かせるチャンスです。「なぜうまくいかなかったのかな?」「どこを改善すれば良くなるだろう?」と一緒に考え、原因を分析し、次の行動に繋げる経験を積ませます。
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他者の意見を聞き、自分の考えと比較する: グループ活動や全体での話し合いの中で、自分とは異なる意見に触れる機会を作ります。「〇〇さんの意見を聞いて、どう思ったかな?」「自分の考えと比べて、同じところや違うところはどこかな?」などと問いかけ、多様な考え方を尊重しつつ、自分の考えを深めることを促します。
授業での実践例
例1:身近なデータの分析と考察(理科・算数・総合)
気候や生き物、登下校の交通量など、身近なデータを収集し、グラフにまとめる活動を行います。グラフができた後、「このグラフから何がわかる?」「一番多いのはどうしてだと思う?」「このデータだけではわからないことは何かな?」などと問いかけます。
さらに、「このデータはいつ、どこで、どのように集めたもの?」「もし別の場所や時期に調べたらどうなるかな?」といった問いを加えることで、データの信頼性や背景、限界について考える視点を養いますことができます。
例2:課題解決型ものづくり(図工・技術・総合)
「〇〇を便利にするものを作ろう」「△△の問題を解決するアイデアを形にしよう」といったテーマでものづくりを行います。複数のグループでアイデアを出し合い、それぞれのアイデアについて「何が良さそうか?」「難しそうな点はどこか?」「どんな人に役立ちそうか?」などを話し合い、評価し合います。
製作中や完成後も、「これで本当に課題は解決できるかな?」「もっと良い方法はないかな?」と問い直し、改善を続けるプロセス自体が批判的思考力を育みます。なぜその形にしたのか、なぜその材料を選んだのかなど、決定の根拠を説明させることも有効です。
例3:メディア情報の検討(国語・総合・情報)
インターネットで見つけた情報や広告、テレビのニュースなどを見て、「この情報が言いたいことは何だろう?」「それは本当のことかな?」「誰が何のために発信している情報かな?」などと問いかけます。
特に、賛成意見と反対意見の両方が提示されているような題材を取り上げ、「それぞれの意見の根拠は?」「どちらの意見に説得力を感じる?それはなぜ?」などと話し合うことは、多角的な視点を持ち、情報の本質を見抜く力を養うことに繋がります。
評価へのヒント
STEAM教育における批判的思考力の評価は、単一のテストで行うのは難しい場合があります。以下のような方法を組み合わせることが考えられます。
- 観察: 授業中の発言、グループワークでの話し合い、疑問点や詰まった点への向き合い方などを日常的に観察し、メモに残します。
- 成果物への評価: 最終的な成果物だけでなく、その過程で作成された設計図、レポート、日誌などに示された思考のプロセス(複数の選択肢の検討、根拠の記述、改善の記録など)を評価します。
- 振り返りや自己評価: 活動後に「うまくいった点、いかなかった点、それはなぜ?」「次にどう活かしたい?」といった振り返りを記述させたり、発表させたりすることで、自己の思考プロセスを客観視する機会を設けます。
- 質疑応答: 発表や説明を聞いた後に、「なぜそう考えたの?」「他の可能性は?」といった質問を投げかけ、その応答から理解度や思考の深さを判断します。
まとめ
小学校でのSTEAM教育は、子どもたちが実体験を通して学びを深める絶好の機会です。この探究のプロセスの中で、意識的に「なぜ?」「根拠は?」「他の可能性は?」といった問いかけを重ね、多様な情報に触れ、他者と対話し、失敗から学ぶ経験を積むことで、子どもたちの批判的思考力は着実に育まれます。
批判的思考力は、これからの社会を生きていく上で不可欠な力です。日々の授業の中で、子どもたちが「確かな見方・考え方」を培っていくことができるよう、ぜひSTEAM教育の実践の中で意識してみてください。