小学校STEAM教育で探究を深める「問い」の立て方:子どもたちの主体性を引き出すテーマ設定のヒント
なぜSTEAM教育で「問い」が重要なのか
小学校でのSTEAM教育は、子どもたちが科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Art)、数学(Mathematics)の各分野を横断的に学び、実社会の課題解決や創造的な活動に取り組むことを目指しています。この学びの中心にあるのが、「探究」のプロセスです。そして、探究の出発点となるのが、子どもたち自身の中から生まれる、あるいは教師が提示する「問い」や「テーマ」です。
受け身の学習ではなく、子どもたちが自ら考え、調べ、試行錯誤する主体的な学びを引き出すためには、「どのような問いを設定するか」「どのように探究テーマを見つけるか」が非常に重要になります。良い「問い」は子どもたちの知的好奇心を刺激し、学びへの意欲を高め、探究活動を深く豊かなものへと導きます。
「良い問い」とはどのようなものか
STEAM教育における「良い問い」にはいくつかの特徴があります。これらは、子どもたちの思考を深め、多様なアプローチを引き出すための鍵となります。
- 答えが一つではない問い: 決まった答えを導くだけでなく、様々な視点や方法での探究が可能な問いは、子どもたちの創造性や多角的な思考を育みます。「〜は何ですか?」よりも「〜はどうすればもっと良くなるだろうか?」「もし〜だったらどうなるだろうか?」といった問いかけが有効な場合があります。
- 子どもたちの興味を引き出す問い: 身近な現象、生活の中の疑問、好きなことに関わる問いは、子どもたちの主体的な関心を引き出しやすいでしょう。教師が一方的に与えるのではなく、子どもたちの日常的な「なぜ?」「どうして?」に耳を傾けることから生まれる問いも重要です。
- 複数の分野に関連しうる問い: 特定の教科や分野だけでなく、様々な知識やスキルを活用する必要がある問いは、STEAM教育の統合的な学びの特性を活かします。例えば、「より安全で快適な通学路にするには?」といった問いは、地理(社会)、計測(算数)、構造(理科)、デザイン(図工)、表現方法(国語)、技術的な解決策(総合的な学習、プログラミングなど)といった多様な要素を含み得ます。
- 探究可能な問い: 漠然としすぎず、小学校の子どもたちが実際の活動(観察、実験、製作、調査など)を通じて探究できる範囲の問いである必要があります。抽象的すぎたり、必要な情報や手段が全く得られなかったりする問いは、子どもたちの意欲を失わせてしまう可能性があります。
探究を深める「問い」の立て方・テーマ設定のステップ
子どもたちと共に探究の「問い」を見つけ、テーマを設定するためには、いくつかのステップが考えられます。これは教師が一方的に行うのではなく、子どもたちの思考を促しながら進めるプロセスです。
- 大枠のテーマを提示・共有する: まずは、「水」「光」「未来の街」「快適な空間」など、大まかな学習の方向性を示すテーマを子どもたちに提示します。これは、学習指導要領の関連する単元や、子どもたちの興味関心、地域の課題などから設定できます。
- 身近な疑問や課題を引き出す: 提示されたテーマや、身近な出来事について、子どもたちが感じている素朴な疑問、不思議に思っていること、解決したい課題などを自由に発表する時間を設けます。観察、簡単な体験活動、ブレインストーミングなどを通して、多様な視点や発想を引き出します。
- 疑問を「探究できる問い」に変換する: 子どもたちから出された様々な疑問やアイデアを、「探究活動を通じて答えを見つけたり、解決策を考えたりできる形」に変換することを支援します。教師が言葉を補ったり、複数のアイデアを結びつけたりしながら、「もし〜だったら?」「どうすれば〜になる?」「〜の秘密は何だろう?」といった探究の問いとして具体化することを促します。
- 問いを絞り込み、探究テーマを決定する: 出てきた複数の問いの中から、子どもたちが最も関心を持ったものや、グループで協力して取り組みたい問いを選びます。選ばれた問いが、そのままグループや個人の探究テーマとなります。この過程で、なぜその問いに興味を持ったのか、どのように探究したいのかを話し合うことも、主体性を育む上で重要です。
探究テーマ設定の実践的なヒント
テーマ設定の際には、以下のような視点が役立ちます。
- 教科横断的な視点: 例えば理科の「水の性質」の学習から、「雨水を活用する方法を考えよう」という工学的なテーマに広げたり、算数の「図形」の学習から「美しい模様をプログラミングで作ろう」というアートや技術と結びつけたりするなど、特定の教科の単元を起点にしながらも、他の分野へと発展できるテーマを設定します。
- 身近な課題や社会的な課題: 学校の中の困りごと、地域が抱える課題、環境問題、ユニバーサルデザインなど、子どもたちの生活や社会と関連するテーマは、学びの意義を実感しやすく、探究へのモチベーションに繋がりやすいです。
- 子どもたちの興味・関心からの出発: 事前のアンケートや話し合いで、子どもたちが今何に興味を持っているのかを把握し、それをテーマ設定に取り入れることは、主体的な学びの強力な後押しとなります。例えば、特定の生き物、乗り物、アニメやゲームの世界など、子どもたちの「好き」から出発し、そこから科学的な仕組みや技術、デザインといったSTEAMの要素に繋げていくアプローチです。
実践上の工夫と教師の役割
限られた授業時間の中で「問い」の生成やテーマ設定を行うためには、効率的なファシリテーションが求められます。例えば、短時間でのブレインストーミング、付箋を使ったアイデアの可視化、グループでの話し合いの活性化などが有効です。
このプロセスにおける教師の役割は、一方的に知識を教えることではなく、子どもたちの発想を触発し、思考を整理し、探究の方向性を見出すことを「支援する」ことにあります。全ての問いやアイデアを拾い上げつつ、それらを探究可能な形に変換するサポート、そして多様な意見を受け止める安心できる場づくりが重要になります。
子どもたちの問いやテーマは、学級全体で共有し、掲示するなどして可視化することも、学びの過程を意識させ、他の子どもの探究への刺激にもなります。
まとめ
小学校のSTEAM教育において、子どもたちの主体的な探究活動を促すためには、「問い」の質と、子どもたち自身がテーマ設定に関わるプロセスが鍵となります。「良い問い」は子どもたちの好奇心と探究心を刺激し、学びを深めます。
身近な疑問から出発し、教科横断的な視点を取り入れながら、子どもたちと共に「探究できる問い」を見つけ、テーマを設定する過程は、子どもたちの思考力や問題解決能力、そして何よりも「学びたい」という内発的な動機を育む貴重な機会となります。教師はファシリテーターとして、子どもたちの声に耳を傾け、彼らの探究の旅を共に歩む姿勢が求められます。この「問い」と「テーマ設定」の段階を丁寧に進めることが、STEAM教育をより豊かで実りあるものに繋げる第一歩となるでしょう。