小学校内でSTEAM教育の輪を広げるには:管理職・同僚へのアプローチと成功のヒント
学校全体で取り組むSTEAM教育の重要性
STEAM教育を学校に導入し、実践していくことは、子どもたちの未来を拓く上で大変重要です。しかし、一人の教員の情熱や努力だけでは、継続的かつ学校全体に根ざした活動とすることは難しいのが現状です。STEAM教育の理念を学校全体で共有し、管理職や他の同僚と連携して取り組むことで、より効果的で持続可能な実践が可能となります。
本稿では、小学校内でSTEAM教育の輪を広げ、学校全体での取り組みへと発展させるための具体的なアプローチ方法や、管理職・同僚の理解と協力を得るためのヒントについて解説します。
なぜ学校全体での取り組みが必要なのか
STEAM教育を学校全体で推進することには、いくつかの大きな利点があります。
まず、情報の共有と蓄積が進みます。特定の教員だけでなく、複数の教員が実践に関わることで、授業の知見や教材に関する情報が共有され、学校全体の教育資源として蓄積されます。これにより、異動等があっても取り組みが途絶えにくくなります。
次に、子どもたちの学びの連続性が確保されます。学年や教科を超えてSTEAM教育の視点を取り入れることで、子どもたちは系統的に探究的な学びを経験できます。
また、教員同士が協力することで、授業準備の負担を軽減したり、異なる専門性を持つ教員が知恵を出し合ったりすることが可能になります。これは、多忙な小学校教員にとって非常に大きなメリットです。
管理職へのアプローチ方法
学校全体でSTEAM教育を推進するためには、まず管理職の理解と協力が不可欠です。管理職へのアプローチは、学校の教育方針や経営計画と関連付ける視点を持つことが重要です。
-
学校の教育目標や経営計画との関連付け: STEAM教育が、学校が既に掲げている教育目標(例えば、「自ら考え、行動する児童の育成」「未来を生き抜く力の育成」など)や、GIGAスクール構想で整備されたICT環境の活用促進といった経営計画にどのように貢献できるかを具体的に説明します。単に新しい教育だから、というだけでなく、学校の既存の取り組みを深めるものであることを強調します。
-
具体的な実践例と効果の提示: ご自身や他の学校での小規模な実践例(トライアル授業など)を紹介し、子どもたちの学びがどのように変わったのか、どんな効果が見られたのかを具体的に伝えます。写真や動画、子どもたちの作品、振り返りシートなども有効な材料となります。データに基づいて「こんな成果があった」「子どもたちが主体的に学んでいた」といった客観的な事実を示すことも重要です。
-
負担軽減策とサポート体制の提案: STEAM教育導入が教員の負担を増やすだけではないことを理解してもらうために、どのようなサポート体制があれば導入しやすいか(例:外部講師の活用、研修機会の確保、教材整備への予算措置、専科教員との連携など)を具体的に提案します。実現可能な範囲でのスモールスタートを提案するのも良いでしょう。
-
外部研修等での情報収集と共有: ご自身がSTEAM教育に関する外部研修に参加したり、書籍やウェブサイトで情報を集めたりした内容を管理職に報告し、学校全体の研修テーマとして提案することも有効です。
同僚へのアプローチ方法
管理職の理解が得られたら、次は同僚への働きかけです。全ての教員が一度に同じ熱量を持つことは難しいので、まずは関心のある先生方から巻き込んでいくのが現実的です。
-
成功事例や楽しさを共有: ご自身の授業での成功体験や、子どもたちが楽しんで学んでいる様子を積極的に共有します。職員室でのちょっとした会話や、校内での情報共有会などを活用します。「こんな面白い教材があるよ」「子どもたちがこんなに集中して取り組んでいた」といったポジティブな情報発信が、他の先生の関心を引きつけます。
-
共同での情報収集や研修: 「一緒にこのテーマについて学んでみませんか」「この研修動画を見てみませんか」などと声をかけ、共同で学ぶ機会を設けます。特定の教員が一方的に教えるのではなく、共に探究する姿勢を見せることが大切です。
-
スモールスタートの提案: 「まずはこの単元のこの部分だけ、STEAM的な視点を取り入れてみませんか」「この教材をちょっと使ってみませんか」など、小さな一歩から始めることを提案します。最初から大がかりなプロジェクトを提案するのではなく、既存の授業の枠組みの中で試せる簡単なアイデアを提示します。
-
協力体制の構築: 特定の授業やイベントで協力を依頼したり、教材研究を一緒に行ったりすることで、共に取り組む仲間を増やします。「この部分を手伝ってもらえませんか」「一緒にこの教材を使ってみませんか」といった具体的な声かけから協力関係が生まれます。
具体的な校内普及活動のステップ
管理職や同僚の理解と協力を得ながら、以下のような具体的な活動を進めることで、学校内にSTEAM教育の輪を広げることができます。
- 情報共有会の実施: 定期的に、または不定期に短時間でも、実践事例や学んだこと、教材に関する情報などを共有する場を設けます。気軽に参加できる雰囲気作りが重要です。
- 教材の共同購入・開発: 特定のSTEAM教材(例: プログラミング教材、センサーキットなど)を学校で購入し、複数の教員で共有して使用する体制を作ります。身近な素材を使った教材開発を共同で行うことも有効です。
- モデル授業の実施: STEAM教育の実践に意欲的な教員がモデル授業を行い、他の教員が参観する機会を設けます。実際の授業を見ることで、具体的にイメージしやすくなります。
- 外部講師や専門家の招へい: 教育委員会や地域の大学、企業などに協力を依頼し、STEAM教育に関する研修会や授業支援を依頼します。外部の専門家の話は、客観的な視点や新たな知見をもたらし、理解促進に繋がります。
- 子どもたちの成果発表会: 子どもたちがSTEAM的な探究活動で得られた成果を発表する場を設けます。保護者や地域の方々だけでなく、他の学年の子どもたちや先生方が集まることで、STEAM教育が学校の活動として可視化されます。
課題とその解決策
校内での普及活動には、時間や予算、教員の知識・スキル、意識の違いなど、様々な課題が伴います。
- 時間: 授業時間や校務に追われる中で、新たな取り組みのための時間を確保することは大きな課題です。まずは既存の授業や行事との連携を模索し、効率的な情報共有や研修方法を検討します。
- 予算: 教材購入などに予算が必要な場合があります。学校予算だけでなく、外部の助成金やクラウドファンディングなども含めて検討します。身近な素材を活用した低コストな実践から始めることも可能です。
- 知識・スキル: 全ての教員がすぐに専門的な知識やスキルを習得することは困難です。まずは基本的な考え方の共有から始め、個々の関心や得意分野に合わせて、無理のない範囲でスキルアップをサポートします。共同で学ぶ体制を作ることも有効です。
- 意識の違い: STEAM教育の必要性や価値に対する認識は様々です。強制するのではなく、STEAM教育が子どもたちや教員自身にとってどのようなメリットをもたらすのかを、根気強く、分かりやすく伝え続けることが重要です。
まとめ
小学校内でSTEAM教育の輪を広げることは、子どもたちの学びを豊かにし、学校全体の教育力を高めるために非常に価値のある取り組みです。管理職に対しては学校経営との関連性や具体的な効果を示し、同僚に対しては成功体験の共有や協力体制の構築を通じて、理解と協力を得るための粘り強い働きかけが求められます。
一朝一夕に全てが変わるわけではありませんが、小さな成功を積み重ね、共に学び合う仲間を増やすことで、必ず学校全体の取り組みへと発展させることができます。本稿で紹介したアプローチやヒントが、皆様の学校でのSTEAM教育推進の一助となれば幸いです。