小学校で始める3DモデリングSTEAM:無料ツールで広がる立体表現と探究
小学校教育において、子どもたちの創造性や論理的思考力を育むSTEAM教育への関心が高まっています。プログラミングやロボットといった分野に加え、近年注目されているのが「3Dモデリング」の活用です。立体的なデザインやものづくりをデジタル上で行う3Dモデリングは、多様なSTEAM要素を含んでおり、小学校での実践に適したツールも登場しています。
この記事では、小学校で3DモデリングをSTEAM教育に取り入れるための基本的な考え方、具体的なツールの紹介、そして授業アイデアについて解説します。
3Dモデリングが小学校STEAMにもたらす可能性
3Dモデリングは、コンピュータ上で仮想的な立体物を作成する技術です。この技術を教育に取り入れることは、子どもたちに様々な学びの機会を提供します。
まず、立体的な形状や空間を扱うため、算数科における図形の学習と深く関連します。平面図形から立体図形への理解を深めたり、座標の考え方に触れたりすることができます。また、物体を設計し、構造を考える過程は工学的な思考を養います。
次に、色や形、質感などを自由に表現できる点は、図画工作科や表現活動と結びつきます。子どもたちは自身のアイデアを具体的な形として表現する楽しさを体験できます。デジタルツールを操作する過程で技術的なスキルも自然と身につきます。
さらに、社会科や理科の学習内容を具体的に視覚化するためにも利用できます。例えば、歴史的な建物をモデリングしたり、動物の骨格や細胞構造を再現したりすることで、抽象的な概念をより深く理解することができます。課題解決型の学習(PBL)において、アイデアを形にする手段としても有効です。
このように、3Dモデリングは特定の教科にとどまらず、教科横断的な学びを促進し、子どもたちの探究心や創造性を刺激する強力なツールとなり得ます。
小学校での導入におすすめの無料3Dモデリングツール
小学校で3Dモデリングを始めるにあたり、操作が簡単で、費用がかからないツールを選ぶことが重要です。いくつか選択肢がありますが、特におすすめなのが「Tinkercad(ティンカーキャド)」です。
- Tinkercad(ティンカーキャド)
- 対象年齢:小学生から
- 特徴:Webブラウザ上で動作するため、PCにインストールする必要がありません。直感的な操作で、用意された様々な形状(円柱、直方体など)を組み合わせたり、穴をあけたりすることでモデリングを行います。ブロックを積み重ねるような感覚で扱えるため、プログラミングのビジュアル言語のように、視覚的に理解しやすい点が小学校の子どもたちに適しています。回路設計やコードブロックを使った簡単なプログラミング機能も統合されており、STEAM連携を深める機能も持ち合わせています。教育機関向けのアカウント設定も可能です。
Blenderのような高機能なツールもありますが、操作が複雑で学習コストが高いため、まずはTinkercadのような初心者向けのツールから始めるのが現実的です。
3Dモデリングを活用した授業アイデア
Tinkercadのようなツールを使って、小学校で実践できる具体的な授業アイデアをいくつかご紹介します。
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アイデア1:算数「立体図形」と連携 - 立体モデルを作って特徴を探る
- 内容:教科書で学ぶ立体図形(立方体、直方体、円柱、三角柱など)をTinkercadで正確にモデリングします。それぞれの立体図形の辺、頂点、面の数を数えたり、展開図を考えたりする活動と組み合わせます。作ったモデルを回転させて様々な角度から観察することで、空間認識力を養うことができます。
- ポイント:実際の立体模型とデジタルモデルを見比べながら学習を進めると、より効果的です。
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アイデア2:図工/総合「未来の道具」をデザインする
- 内容:未来の学校生活や家庭生活を便利にするオリジナルの道具を考え、Tinkercadでモデリングします。「こんな機能があったらいいな」という想像を膨らませ、その機能を実現するための形をデザインします。完成したモデルについて、どのような機能を持つのか、どのような素材を想定しているのかなどを発表する活動を含めます。
- ポイント:デザイン思考のプロセス(共感、定義、アイデア出し、プロトタイプ、テスト)を取り入れることで、より探究的な学びになります。
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アイデア3:社会/総合「地域のシンボル」を再現する
- 内容:学区内にある歴史的な建物やランドマークなどを調べ、その特徴を捉えてTinkercadでモデリングします。建物の構造やデザインの意図、地域との関わりなどを調べ学習と組み合わせます。複数の児童が分担してパーツを作成し、協力して一つの大きな建物モデルを完成させる活動も協働的な学びを促します。
- ポイント:事前に現地を訪れたり、写真や資料を集めたりする活動と組み合わせると、リアリティのある探究につながります。
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アイデア4:理科/総合「身近なものの構造」を分解・再現する
- 内容:身近にある簡単な仕組みの道具(例:鉛筆削り、ホッチキス)や、植物の種、昆虫の体の構造などを観察し、その構造を理解した上でTinkercadで分解・再現を試みます。パーツごとにモデリングし、それらを組み立てる過程で、ものの仕組みや構成要素への理解を深めます。
- ポイント:実際の物を分解するわけにはいかない場合でも、写真や図解を参考にすることで十分に取り組めます。
これらのアイデアはあくまで一例です。子どもたちの興味や学年の実態に合わせて、様々なテーマで3Dモデリングを活用することができます。
導入のポイントとよくある課題への対応
小学校に3Dモデリングを導入する際のポイントと、先生方が抱えがちな課題への対応について考えます。
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ツールの選定と準備:
- Tinkercadのようなブラウザベースの無料ツールであれば、特別なソフトウェアのインストールは不要です。ただし、ある程度の性能を持つPCまたはタブレットと安定したインターネット環境が必要です。
- アカウント設定は、学校のポリシーに合わせて適切に行う必要があります。教育機関向けのアカウント作成ガイドなどを参考に進めてください。
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授業時間の確保:
- 単独の「3Dモデリング」の時間を設けるのは難しい場合が多いでしょう。前述のように、算数、図工、社会、理科、総合的な学習の時間など、既存の教科や時間に組み込む形で実施するのが現実的です。単元のまとめや発展的な学習として位置づけることも有効です。
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教員のスキルアップ:
- 先生自身がツールを使いこなせるようになる必要があります。Tinkercadには公式のチュートリアルや教育者向けの資料が豊富に用意されています。まずは基本的な操作を学び、簡単なモデリングを体験してみることから始めましょう。オンラインの研修動画なども参考になります。無理に全てを教えようとせず、子どもたちの「知りたい」「作ってみたい」という気持ちを引き出し、一緒に学び進める姿勢も大切です。
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評価方法:
- 3Dモデリングの作品は、完成度だけでなく、どのような意図でデザインしたのか、工夫した点、難しかった点、どのように改善したのかといったプロセスを評価することが重要です。ポートフォリオとしてデータを保存したり、作品について発表させたりする機会を設けると良いでしょう。協働で作品を作る場合は、協力する姿勢や役割分担なども評価の観点に含めることができます。
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3Dプリンターの活用:
- モデリングしたものを実際に形にする3Dプリンターがあれば、子どもたちのモチベーションはさらに高まります。ただし、3Dプリンターは導入コストや維持管理の手間がかかります。必須ではありませんので、学校の予算や環境に合わせて検討すると良いでしょう。モデルデータを共有サイトにアップロードして、他の学校や地域の施設で出力してもらうといった連携も考えられます。
まとめ
小学校における3Dモデリングの導入は、子どもたちの立体的な思考力、創造性、問題解決能力を育むための有効な手段です。Tinkercadのような使いやすい無料ツールが登場したことで、以前に比べて取り組みやすくなっています。
既存の教科と連携させたり、総合的な学習の時間に組み込んだりすることで、限られた時間の中でも実践は可能です。先生自身も楽しみながら、子どもたちと一緒に新たな表現方法や探究の可能性を探ってみてはいかがでしょうか。最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、子どもたちの柔軟な発想は、きっと先生に多くの気づきを与えてくれるはずです。
3Dモデリングをきっかけに、子どもたちがものづくりやデザイン、そしてSTEAM分野全般に対する興味・関心をさらに深めることを願っています。