身近な素材で始める小学校STEAM教育:家庭や学校にあるもので実践する方法
はじめに
小学校でのSTEAM教育導入に関心はあるものの、特別な教材や設備が必要なのではないかと懸念される先生方もいらっしゃるかもしれません。しかし、STEAM教育の実践は、必ずしも高価なツールや専門的な機材が必須というわけではありません。実は、私たちの身の回りにある、普段使い慣れた素材や不用品を活用することでも、十分に探究的で創造的な学びをデザインすることが可能です。
この記事では、家庭や学校に日常的に存在する身近な素材を活用したSTEAM教育のアクティビティ例と、それらを授業に取り入れる際のポイントについて具体的にご紹介します。限られた時間や予算の中で、子どもたちの「なぜ?」「どうして?」という探究心や、「こうしたらどうなるかな?」という創造性を育むヒントとなれば幸いです。
身近な素材がSTEAM教育に活きる理由
身近な素材を活用することには、いくつかのメリットがあります。
- 手軽さと入手の容易さ: 特別な手配をすることなく、すぐに活動を始めることができます。子どもたちが家庭から持ち寄ることも容易です。
- コストの削減: 新たな教材購入にかかる費用を抑えることができます。
- 創造性の促進: 用途が限定されていない素材だからこそ、子どもたちは自由な発想で素材の使い方を考え、工夫するようになります。
- 持続可能性への意識: 不用品を再活用することで、環境問題やリサイクルへの意識を自然と育む機会にもなります。
- 失敗を恐れない環境: 高価なものではないため、失敗してもやり直しやすいという心理的なハードルが下がります。
これらのメリットは、特に多くの制約がある小学校の現場において、STEAM教育を持続可能に実施するための重要な要素となります。
身近な素材を活用したSTEAMアクティビティ例
具体的なアクティビティ例をいくつかご紹介します。これらの例は、複数の教科領域(理科、算数、図工、家庭科など)と連携させやすく、子どもたちの探究心や創造性を刺激するようデザインできます。
例1:紙コップと割り箸で「動くおもちゃ」を作ろう(科学、工学、算数、図工)
- 素材: 紙コップ、割り箸、輪ゴム、セロハンテープ、ストロー、画用紙など
- 活動内容:
- 紙コップや割り箸、輪ゴムなどを使い、転がるおもちゃ、飛ぶおもちゃ、動く人形など、様々な「動く仕組み」を持つおもちゃを設計・制作します。
- 輪ゴムの弾性をどう利用するか、重心をどうするか、摩擦をどう減らすかなど、素材の特性や物理的な原理を考えながら工夫します。
- 設計図を描いたり、友達とアイデアを交換したりしながら制作を進めます。
- 完成したおもちゃを実際に動かし、改良点を見つけて改善します。
- STEAM要素:
- Science (科学): 弾性、摩擦、重力、運動の法則など物理的な概念に触れます。
- Technology (技術): 道具(ハサミ、テープなど)を適切に使い、素材を加工する技術を学びます。簡単な機構(輪ゴムの力で動かすなど)を理解・応用します。
- Engineering (工学): 課題(おもちゃを動かす)に対して、素材を選び、設計し、組み立て、試行錯誤しながら解決策を形にします。
- Art (芸術): おもちゃのデザインや装飾を考え、創造的に表現します。
- Mathematics (算数): 長さや角度を測ったり、形や構造のバランスを考えたりする際に算数の知識や感覚を使います。
例2:段ボールとペットボトルで「秘密基地」を作ろう(工学、図工、社会、算数)
- 素材: 段ボール箱、ペットボトル、新聞紙、ガムテープ、ひも、布切れなど
- 活動内容:
- 複数の段ボール箱やペットボトルなどを組み合わせて、グループで協力して入れるサイズの「秘密基地」や「休憩スペース」を制作します。
- どのような構造にすれば丈夫になるか、光を取り入れるにはどうすればよいか、入口や窓をどこに設置するかなどを話し合い、設計します。
- 段ボールを切ったり、組み立てたり、補強したりする作業を行います。
- 基地の機能(例えば、本を読む場所、展示スペースなど)を考え、内装や装飾も工夫します。
- STEAM要素:
- Science (科学): 素材の強度や安定性について考えます。
- Technology (技術): 素材の加工や接合の方法を学びます。安全に作業するための技術も含まれます。
- Engineering (工学): 空間の利用、構造の安定性、機能性などを考慮した設計と建設を行います。チームで協力してプロジェクトを推進します。
- Art (芸術): 基地のデザイン、内装、装飾を考え、表現します。創造性を発揮して空間を魅力的にします。
- Mathematics (算数): 寸法を測ったり、図形を組み合わせたり、面積や容積を概算したりする際に算数の知識や感覚を使います。
例3:野菜や果物、身近な液体で「カラフル実験」をしよう(科学、芸術)
- 素材: 紫キャベツ、レモン汁、重曹、水、食用色素、紙、スポイト、試験管(または透明なコップ)など
- 活動内容:
- 紫キャベツの煮汁が酸性やアルカリ性の液体に反応して色が変わる性質を利用し、身近な液体(レモン汁、石鹸水など)を使って色の変化を観察する実験を行います。
- 食用色素を水に溶かし、色の混ぜ合わせ方や濃淡の変化を観察したり、コーヒーフィルターなどに染み込ませてクロマトグラフィー(色の分離)を試みたりします。
- 実験ノートに観察したことや気づいたことを記録します。
- 変化した色や、にじみを利用して、カラフルなアート作品を制作することもできます。
- STEAM要素:
- Science (科学): 酸性・アルカリ性と指示薬の反応、色の三原色、物質の溶解や分離といった化学的な現象や物理的な現象を探究します。観察力、記録力、推論力を養います。
- Technology (技術): 安全な実験器具(スポイト、コップなど)の扱い方を学びます。
- Engineering (工学): 実験の手順を考えたり、結果を予測したりします。
- Art (芸術): 実験で生まれた色や模様を活かして、創造的な表現を行います。科学的な現象を美的な視点から捉え直します。
- Mathematics (算数): 液体の量を測ったり、比率を考えたりする際に算数の知識を使います。
授業に取り入れる際のポイント
身近な素材を活用したSTEAMアクティビティを授業に導入する際には、以下の点を意識すると効果的です。
- 明確な問いや課題を設定する: 「〇〇を△△の力で動かすには?」「〇〇が壊れない構造を作るには?」「〇〇の色が変わる秘密は?」など、子どもたちが探究したくなるような具体的な問いや課題を設定することが出発点となります。
- 探究プロセスを重視する: 完成品だけでなく、子どもたちがどのように考え、どのように試行錯誤したのかというプロセスを大切に評価します。うまくいかなかった経験も重要な学びであることを伝えます。
- 協働を促す: グループでの活動を取り入れ、子どもたちが互いにアイデアを出し合い、協力して課題解決に取り組む機会を設けます。コミュニケーション能力や協調性を育みます。
- 振り返りの時間を設ける: 活動を通して気づいたこと、学んだこと、難しかったこと、次に挑戦したいことなどを発表したり話し合ったりする時間を設けます。学びを言語化し、定着させる上で重要です。
- 安全への配慮: 素材によっては危険を伴う可能性もあります。ハサミやカッターの使用、液体の取り扱いなど、安全に関する指導を徹底します。不用品を使う場合は、清潔であるか、危険な形状になっていないかなどを事前に確認します。
- 既存の教科との関連付けを意識する: 例えば、図工の時間に「動くおもちゃ」の制作を取り入れ、理科で学んだ力や動きの概念と結びつけたり、算数で学んだ図形や測定の知識を活用させたりするなど、教科横断的な視点を持つことで、学びの深まりが期待できます。
まとめ
STEAM教育は、特別な環境や教材がなくても、身近な素材を工夫して活用することで十分に実践可能です。家庭や学校にある紙コップ、段ボール、ペットボトル、野菜といった日常的な素材は、子どもたちの創造性や探究心を刺激する宝庫となり得ます。
大切なのは、子どもたちが自ら考え、手を動かし、試行錯誤する中で、科学的なものの見方、技術や工学的な思考、芸術的な感性、数学的な論理性を統合的に働かせる機会を提供することです。この記事でご紹介した例やポイントが、小学校でのSTEAM教育実践の一助となれば幸いです。ぜひ、身近な素材から生まれる子どもたちの豊かな発想と学びを楽しんでください。