探究を深める「伝える」力:小学校STEAMで成果を表現し、共有する方法
STEAM教育における「伝える」ことの重要性
小学校におけるSTEAM教育は、子どもたちが自ら問いを立て、探究し、創造するプロセスを重視します。この探究の過程で得られた発見や学び、そして生み出した作品やアイデアを他者に「伝える」ことは、学びを定着させ、深め、新たな学びへと繋げるために非常に重要なステップとなります。
単に成果を発表するだけでなく、「なぜそう考えたのか」「どのように作ったのか」「何が難しかったか」「次に何をしたいか」といった思考のプロセスや感情も含めて表現し、共有することで、子どもたちは自らの学びを客観視し、内省する機会を得ます。また、他者からのフィードバックを受けたり、異なる視点に触れたりすることで、考えを広げ、さらに探究を進める意欲を持つことができます。
小学校段階で「伝える力」を育成することは、STEAM分野のみならず、全ての教科における学習内容の理解を深め、将来社会で活躍するための基盤となるコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力の育成にも繋がります。
STEAM活動における「伝える」プロセスの位置づけ
STEAM活動における「伝える」は、最終的な発表会だけを指すものではありません。探究の様々な段階で「伝える」機会を設けることが効果的です。
- 初期段階(問いの設定、計画): 自分が何に興味を持ち、何を調べたいかを友達や先生に話す、計画を共有する。
- 中間段階(試行錯誤、進捗報告): 今取り組んでいること、上手くいったこと・いかなかったこと、次に試したいことを報告・相談する。プロトタイプを見せて説明する。
- 最終段階(成果の表現、発表): 探究全体を通して分かったこと、作ったもの、そこから考えたことなどをまとめ、分かりやすく表現・発表する。
- 振り返り: 活動全体を振り返り、学びを文章や図で記録し、自己評価や他者評価を行う。
これらの段階で意図的に「伝える」機会を設けることで、子どもたちは自身の思考を整理し、言語化する力を養うことができます。
小学校で育成したい「伝える力」の要素
STEAM活動を通して育成したい「伝える力」には、いくつかの要素が含まれます。
- 内容を構成する力: 伝えたい事柄(目的、方法、結果、考察、工夫点など)を整理し、相手に分かりやすく順序立てて並べる構成力です。
- 適切に表現する力: 自分の考えや成果を、言葉、文章、図、写真、グラフ、作品そのもの、ジェスチャーなど、多様な媒体や方法を用いて効果的に表現する力です。専門用語を避ける、具体例を用いるなども含まれます。
- 聞き手を意識する力: 誰に伝えるのか、その聞き手はどの程度の予備知識を持っているのかを考え、伝え方や内容のレベルを調整する力です。質問を想定したり、聞き手の反応を見ながら調整したりすることも重要です。
- ツールを活用する力: プレゼンテーションソフト(例: Google スライド, PowerPoint)、ドキュメント作成ツール(例: Google ドキュメント, Word)、動画編集ツール、ポスター作成ツールなどを活用して、より分かりやすく魅力的に伝える技術です。
具体的な指導方法と実践例
これらの「伝える力」を育成するためには、子どもたちの発達段階や活動内容に合わせて、きめ細やかな指導と多様な表現の機会を設定することが大切です。
低学年向けのアプローチ
- 作品を見せながら説明: 作ったものを見せながら「ここを工夫したよ」「こんなところが動くよ」と短い言葉で伝える練習をします。教師が問いかけながら引き出すのも有効です。
- 絵や簡単な言葉での表現: 探究で分かったことや作り方を、絵や簡単な文章でカードにまとめるなど、視覚的な表現を促します。
- ミニ発表会: 毎回授業の終わりに短い時間で「今日やったこと」「分かったこと」を一人ずつ発表する機会を設けます。
中学年向けのアプローチ
- 発表構成シートの活用: 「はじめに」「どうやったか」「分かったこと」「工夫したこと」「おわりに」といった簡単な構成案を考えるシートを用意し、思考の整理をサポートします。
- 簡単なスライド作成: 伝えたいことを数枚のスライドにまとめる練習をします。文字だけでなく、絵や写真を使うことの有効性を伝えます。
- グループでの役割分担: 共同で探究した成果を発表する際に、各自の担当部分を決めることで、協力しながら発表を作り上げる経験を積ませます。
高学年向けのアプローチ
- 構造化された資料作成: 目的、方法、結果、考察といった論理的な流れを意識した発表資料(スライド、レポートなど)作成を指導します。
- データや根拠の示し方: 観察や実験で得られたデータ(グラフや数値)をどのように示せば説得力が増すかを教えます。
- 効果的な話し方の指導: 聞き手に語りかけるように話す、声の大きさや速さを調整する、アイコンタクトをとるなど、発表スキルを高めるアドバイスを行います。
- 多様なツールの活用: プレゼンテーションソフト、動画編集アプリ、ウェブサイト作成ツールなど、様々なデジタルツールを用いた表現方法を提案します。
全学年共通の指導ポイント
- 建設的なフィードバック: 発表後には、良かった点や改善点について具体的にフィードバックを行います。子ども同士でのフィードバックを取り入れる際は、「〇〇さんの発表の△△が分かりやすかったです。なぜなら…」「もし次に発表するなら、▢▢についてもう少し詳しく聞きたいです。」のように、具体的なポイントを挙げ、相手を尊重した伝え方を指導します。
- リハーサルの機会: 本番前に友達や先生の前でリハーサルを行い、時間配分や話し方を確認する機会を設けます。
- 失敗を恐れない雰囲気作り: 発表中に言葉に詰まったり、想定外の質問がきたりしても大丈夫であることを伝え、安心して挑戦できる環境を作ります。完璧さよりも、一生懸命伝えようとする姿勢を称賛します。
- 多様な表現方法の承認: 口頭での発表だけでなく、模造紙、パワーポイント、動画、作品展示と説明文、寸劇など、様々な表現方法を子どもたちが選択できるようにし、それぞれの良さを認めます。
STEAM活動における「伝える」実践例
- プログラミング発表会: 作成したプログラムがどのように動き、どのような課題を解決できるのかを実演しながら説明します。プログラムのコードの一部を見せて工夫点を解説するのも良いでしょう。
- ものづくり展: 作成した作品(例: 自動で動くおもちゃ、光るオブジェ)を展示し、作品のコンセプト、材料、作り方、苦労した点などを説明するポスターや短いプレゼンテーションを用意します。来場者からの質問に答える機会を設けます。
- 地域探究報告会: 地域課題をSTEAM的なアプローチで解決しようとした探究活動の成果を、スライドや動画、模型などを用いて地域住民や保護者に向けて発表します。
- 科学実験・観察レポート発表: 実験で分かったことや観察を通して考えたことを、図やグラフを用いて分かりやすく発表します。仮説と結果が異なった場合に、なぜそう考えられるかを説明する力も重要です。
評価へのヒント
STEAM教育における「伝える」力の評価は、単に滑らかに話せるかといった表面的な部分だけでなく、探究内容が盛り込まれているか、論理的に構成されているか、聞き手に配慮できているかなど、育成したい要素を踏まえて行うことが望ましいです。
- ルーブリックの活用: 「内容の構成」「表現の工夫」「聞き手への配慮」といった観点ごとに評価規準を明確にしたルーブリックを作成し、子どもたちにも事前に共有することで、目指すべき姿を分かりやすく示せます。
- 多角的な評価: 教師の評価だけでなく、子ども同士の相互評価や、活動への自己評価も取り入れることで、多様な視点からの学びを得られます。
- プロセス評価: 最終発表だけでなく、中間報告や日々の記録、チーム内でのコミュニケーションの様子なども含めて、プロセス全体における「伝える」努力や工夫を評価します。
まとめ
小学校のSTEAM教育において、探究した成果を効果的に「伝える」力は、学びを確実なものとし、他者との繋がりを深める上で不可欠な能力です。多様な表現方法の機会を設定し、構成力、表現力、聞き手を意識する力、ツール活用力といった要素を意識した指導を行うことで、子どもたちは自信を持って自らの学びを発信できるようになります。今回ご紹介した具体的なアプローチや実践例を参考に、ぜひ日々のSTEAM活動の中で「伝える」力を育む指導に取り組んでいただければ幸いです。