小学校STEAM教育で育む情報活用能力:ICTツールを活用した実践例
はじめに
小学校におけるSTEAM教育の導入が進む中で、教科横断的な学びや探究活動、問題解決学習の重要性が高まっています。これらの活動において、児童が情報を主体的に収集し、整理・分析し、そして効果的に表現・共有する能力、すなわち「情報活用能力」は不可欠な要素となります。
情報活用能力は、現代社会を生きる上で基盤となる力であり、学習指導要領においても育成が求められています。STEAM教育は、この情報活用能力を育むための実践的な場として非常に有効です。本記事では、小学校でのSTEAM教育において、ICTツールを効果的に活用しながら情報活用能力を育むための具体的な実践例と指導のポイントをご紹介します。
STEAM教育における情報活用能力の重要性
STEAM教育は、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)といった領域を統合的に学び、実社会の課題解決や新しい価値創造を目指すものです。このプロセスでは、児童は問いを立て、必要な情報を集め、得られた情報を基に思考し、アイデアを形にし、その成果を発表・共有します。
このような探究的な活動の各段階で、情報活用能力が重要な役割を果たします。
- 問いの設定・背景理解: 課題に関する情報を収集し、その背景や現状を理解します。
- 計画立案: 収集した情報を基に、課題解決に向けたアプローチや計画を立てます。
- 実践・検証: 必要な技術や知識に関する情報を参照したり、実験データを記録・整理したりします。
- 分析・考察: 集めたデータや情報を分析し、結果について考察します。
- 表現・共有: 活動のプロセスや成果を分かりやすくまとめ、他者に伝えます。
これらのプロセスを通じて、児童は単に知識を得るだけでなく、情報を扱うスキルそのものを向上させることができます。
ICTツールを活用した情報活用能力育成の実践例
小学校で情報活用能力を育むためには、児童の発達段階や学校のICT環境に合わせて、様々なツールを活用することが有効です。ここでは、具体的な活動例と活用できるICTツールをご紹介します。
1. 探究活動における情報収集と整理
特定のテーマ(例: 「私たちの街のヒミツ」「エネルギーの使い方を考えよう」など)について探究する活動では、まず情報収集から始まります。
- 活動例: 地域のごみ問題をテーマにした探究活動。
- 情報収集:
- インターネット検索で、地域のごみ処理の現状や課題、リサイクルの方法などを調べる。信頼できる情報源(自治体の公式サイトなど)を選ぶことの重要性も指導します。
- 関連する動画コンテンツを視聴し、視覚的に理解を深める。
- 情報の整理:
- 収集した情報をキーワードごとにまとめ、メモを作成する(デジタルノートツールなど)。
- 簡単な概念図やマインドマップを作成し、情報の関連性を整理する(図作成ツールなど)。
- アンケート調査を行った場合は、データをスプレッドシートに入力し、集計の準備をする。
- 情報収集:
- 活用ツール例: Webブラウザ、デジタルノートアプリ(OneNote, Evernotesなど)、マインドマップ作成ツール(Coggle, MindMeisterなど)、スプレッドシートソフト(Google Sheets, Excelなど)。
2. データ分析と可視化
集めたデータや観察記録を整理し、そこから意味を読み取る活動です。
- 活動例: 「校庭で一番見かける生き物は何だろう?」というテーマでの生物観察。
- データの整理: 観察記録(日時、場所、見かけた生き物の種類と数など)をスプレッドシートに入力する。
- データ分析・可視化:
- スプレッドシートの機能を使って、生き物の種類ごとの合計数を集計する。
- 集計結果を円グラフや棒グラフで表示する機能を使ってみる。簡単なグラフ作成ツールの利用も考えられます。グラフから何が分かるかを考察します。
- 考察: グラフを見て気づいたこと、なぜ特定の生き物が多かったのかなどを話し合い、考察を深めます。
- 活用ツール例: スプレッドシートソフト(Google Sheets, Excelなど)、簡易的なグラフ作成ツール。
3. 成果の表現と共有
探究活動やものづくりプロジェクトの成果を、他者に分かりやすく伝えるための活動です。
- 活動例: 地域のごみ問題について調べた結果と、自分たちにできるリサイクル方法の提案をまとめる。
- 表現:
- 調べた内容や提案をまとめたプレゼンテーション資料を作成する(スライド作成ツール)。図やグラフ、写真などを効果的に挿入します。
- ものづくりの成果物を写真や動画で記録し、説明文と合わせてまとめる(ドキュメント作成ツール、簡易的なウェブサイト作成ツールなど)。
- ポスター発表用に、まとめた情報をレイアウトする(ポスター作成ツールなど)。
- 共有:
- 作成した資料を使って、クラス内で発表を行う。
- 保護者や他の学年に向けて、成果物を展示したり、デジタル作品を共有フォルダや学習プラットフォームにアップロードしたりする。
- 表現:
- 活用ツール例: プレゼンテーションソフト(Google Slides, PowerPointなど)、ドキュメント作成ソフト(Google Docs, Wordなど)、簡易的なウェブサイト作成ツール(Google Sitesなど)、共同編集ツール(Google Docs/Sheets/Slidesなど)、クラウドストレージ(Google Drive, OneDriveなど)、学習支援プラットフォーム。
実践のポイントと指導上の留意点
情報活用能力を育むSTEAM活動を効果的に行うためには、いくつかのポイントがあります。
- 目的意識を明確に: なぜその情報を集めるのか、その情報をどう使うのかといった目的を、児童自身が理解できるようにします。単にツールを使うことが目的にならないよう注意が必要です。
- ツールの段階的な導入: 最初から高度なツールを使う必要はありません。児童のスキルや習熟度に合わせて、簡単なものから徐々にステップアップしていくことが大切です。手書きでの整理から始め、慣れてきたらデジタルツールを使うなど、無理のない範囲で導入します。
- 情報の吟味と判断: インターネット上の情報には、正しいものもそうでないものもあります。情報の出所を確認したり、複数の情報源を比較したりすることの重要性を、活動の中で繰り返し伝えます。小学校段階では、信頼できる情報源を教員が事前に提示することも有効です。
- 共同での作業を促す: 複数人で協力して情報を集めたり、整理したり、表現したりする活動は、コミュニケーション能力や協働性を育むだけでなく、他者のアイデアや視点に触れる機会にもなります。共同編集が可能なツールも活用できます。
- 表現方法の多様性: プレゼンテーションだけでなく、ポスター、レポート、動画、ウェブサイトなど、多様な表現方法があることを示し、児童が伝えたい内容や対象に合わせて最適な方法を選べるように支援します。
- 授業時間の確保と工夫: 情報収集やツール操作に時間がかかる場合もあります。単元計画の中で情報活用スキルを育成する時間を確保したり、家庭学習と連携したり、他の教科の学習と統合したりするなど、柔軟な対応が求められます。
まとめ
小学校におけるSTEAM教育は、児童が実社会と関連付けながら主体的に学び、課題解決に取り組むための絶好の機会です。このプロセスにおいて、情報活用能力は児童の学びを深め、成果を社会に発信するための強力なツールとなります。
ICTツールを適切に活用することで、情報収集・整理・分析・表現・共有といった一連の活動がより円滑かつ効果的に行えるようになります。先生方には、これらのツールを児童の情報活用能力育成のための手段として捉え、様々なSTEAM活動の中で積極的に取り入れていただくことをお勧めします。
情報活用能力は、一度身につければ他の様々な学習場面や将来にわたって役立つ汎用性の高いスキルです。STEAM教育を通じて、児童が情報を主体的に活用し、自ら学びを創造していく力を育んでいきましょう。