学びの過程を捉える：小学校STEAM教育における記録と振り返りの実践ヒント
なぜ小学校STEAM教育で記録と振り返りが重要なのでしょうか
小学校におけるSTEAM教育は、特定の知識や技能の習得だけでなく、子どもたちが自ら問いを立て、多様な情報を活用しながら探究し、解決策を創造していく「プロセス」そのものを重視します。この探究のプロセスを子どもたち自身が意識し、自分の学びを客観的に捉えるためには、「記録」と「振り返り」が不可欠です。
記録は、子どもたちが試行錯誤した足跡、発見したこと、感じたことなどを形として残すことです。一方、振り返りは、その記録を見ながら、あるいは活動を思い出しながら、何がうまくいったのか、なぜうまくいかなかったのか、次にどうすればよいのかなどを考え、自分の学びを意味づけ、深める活動です。これらを通して、子どもたちは自身の思考プロセスや課題解決に向けた粘り強さを自覚し、非認知能力を含む様々な力を育んでいきます。また、先生方にとっては、子どもたちの学びの状況や理解度を把握し、個に応じた支援や評価を行うための重要な情報源となります。
小学校での具体的な記録方法
STEAM教育における記録方法は多岐にわたります。子どもたちの発達段階や授業内容、利用できるツールに合わせて、様々な方法を取り入れることが効果的です。
- ノートやワークシート: 昔ながらの方法ですが、手書きで絵や文字、図などを自由に表現できるため、思考の整理やアイデアの発想段階で有効です。活動の計画、実験や制作の様子、気づき、改善点などを時系列で記録させます。テンプレートを用意すると、子どもたちは書きやすくなります。
- 写真や動画: 制作物の中間段階や完成形、実験の様子、話し合いの場面など、言葉だけでは伝えきれない情報を記録するのに最適です。タブレット端末などを活用すれば、手軽に記録できます。特に、プログラミングで動くものや、実験の変化などを記録するのに役立ちます。
- 音声メモ: アイデアがひらめいた瞬間や、友達との話し合いで重要な気づきがあった場面などを、音声で記録する方法です。文章にするのが苦手な子どもでも取り組みやすいでしょう。
- デジタルツール（ポートフォリオアプリ、共有ノートなど）: 写真、動画、音声、テキストなど、様々な形式の記録を一元管理し、整理するのに便利です。Classiやロイロノート・スクールなどのツールは、子どもたちの学びの軌跡を時系列で蓄積し、保護者や他の先生との共有もしやすい機能を持っています。子どもたちが自分で記録をアップロードしたり、簡単なコメントを付け加えたりする練習にもなります。
- 成果物そのもの: 完成した作品やレポート、発表資料なども重要な記録の一部です。これらを写真に撮ったり、データとして保存したりすることで、後から振り返ることができます。
小学校での効果的な振り返り方法
記録された内容をもとに、どのように振り返りを行うかが学びを深める鍵となります。
- 個人での振り返り: 授業の終わりや活動の区切りに、記録を見ながら静かに振り返る時間を作ります。「今日の活動で一番頑張ったことは何ですか？」「難しかったことは何ですか？」「どうすればもっと良くなると思いますか？」といった問いかけを用意すると良いでしょう。ワークシートの形式で振り返りを記述させるのも有効です。
- ペアやグループでの振り返り: 友達と記録を見せ合ったり、活動について話し合ったりしながら振り返ります。他者の視点に触れることで、自分だけでは気づけなかった点に気づいたり、新たなアイデアが生まれたりします。「〇〇さんの△△なところがいいね」「私は〜なところで苦労したんだけど、どうやって解決したの？」といった対話が生まれるような働きかけが重要です。
- 全体での共有と振り返り: 学級全体で、数人の子どもたちが自分の記録や成果を発表し、活動プロセスや気づきを共有します。他の子どもたちは発表を聞きながら、自分の活動と比較したり、質問したりすることで学びを深めます。発表形式は、口頭発表、スライド発表、作品展示など様々です。
- ルーブリックの活用: 事前に活動の評価基準（ルーブリック）を子どもたちと共有しておき、その基準に照らして自分の記録や成果を自己評価・相互評価することも振り返りの一環となります。これにより、子どもたちは目指すべき姿や活動のポイントを意識しながら振り返ることができます。
- 先生との個別面談: 限られた時間ではありますが、先生が子どもたちの記録や振り返りシートを見ながら、個別に短い対話をすることで、子どもたちの学びの状況をより深く理解し、的確なアドバイスを送ることができます。
先生方は記録・振り返りをどう活用するか
先生方にとって、子どもたちの記録と振り返りの内容は、指導改善や評価に繋がる貴重な財産です。
- 子どもの学びの理解: 個々の子どもがどのように考え、どのように課題を解決しようとしたのか、どこでつまずいているのかなどを具体的に把握できます。これにより、次時の授業計画や個別支援の必要性を判断できます。
- 指導の改善: クラス全体としてどのような傾向があるか、どの部分で多くのつまずきが見られるかなどを分析し、今後の授業展開や指導方法の改善に活かします。
- 評価への活用: 知識・技能の習得だけでなく、思考力、判断力、表現力、主体性、協働性など、STEAM教育で育成を目指す資質・能力について、プロセスを記録したポートフォリオなどを活用して多角的に評価できます。期末の成績をつける際の参考にするだけでなく、子どもたちの成長を促すための形成的な評価として日常的に活用することが重要です。
- 保護者との情報共有: 子どもたちの活動の様子や学びのプロセスを記録したものを共有することで、保護者の方にSTEAM教育への理解を深めていただいたり、家庭での声かけのヒントを提供したりすることができます。
子どもたちにとっての記録・振り返りのメリット
記録と振り返りは、子どもたちの自律的な学びを育みます。
- 学びの可視化: 自分の試行錯誤の過程や成長が目に見える形になることで、達成感や次への意欲に繋がります。
- メタ認知能力の育成: 自分の思考や行動を客観的に捉え、「なぜそう考えたのか」「次にどうすれば良いか」を考える力が養われます。
- 表現力の向上: 自分の考えや経験を様々な方法（言葉、絵、写真など）で表現する練習になります。
- 課題解決能力の向上: 失敗した経験やそこから学んだことを記録・振り返ることで、次に同じような状況に直面した際に活かすことができます。
まとめ
小学校STEAM教育において、記録と振り返りは、単なる活動の「おまけ」ではなく、子どもたちの学びを深め、主体性や探究心を育むための重要なプロセスです。様々な記録方法や振り返りの機会を取り入れ、子どもたちが自身の学びの過程を意識し、そこから新たな学びや行動に繋げられるよう支援することが、先生方の役割です。時間は限られていますが、少しずつでも記録と振り返りの習慣を授業に取り入れることで、子どもたちの成長は確実に豊かなものになるはずです。ぜひ、今回ご紹介したヒントを参考に、実践できることから始めてみてください。