学校にあるものでSTEAMを深める:特別教室や図書室を活用した実践アイデア
はじめに:身近なリソースで広がるSTEAM教育の可能性
STEAM教育の実践にあたり、「特別な教材や設備が必要なのでは」と考える先生もいらっしゃるかもしれません。しかし、実は学校内にある既存の施設や備品、資料などを活用することで、十分に豊かで実践的なSTEAM教育を展開することが可能です。
普段利用している特別教室や図書室、さらには校庭や廊下といった場所も、視点を変えることで学びの宝庫となります。身近なリソースを活用する利点は、導入コストを抑えられるだけでなく、子どもたちが日常生活や学校生活と学びの繋がりを実感しやすい点にあります。本記事では、小学校にある様々な場所やリソースを活用したSTEAM教育の実践アイデアをご紹介します。
学校内のリソースを活用したSTEAM教育の実践アイデア
学校内の様々な場所には、STEAMの各分野に繋がる学びの機会が隠されています。ここでは、いくつかの具体的な活用アイデアをご紹介します。
図書室を活用する:情報の収集と探究、表現の場
図書室は、本を通じて科学、技術、工学、芸術、数学といった多様な情報に触れることができる場所です。
- 探究テーマの設定と深掘り: 特定の自然現象(理科)や歴史上の技術革新(社会科、技術)について、図書資料を用いて深く調べます。疑問に思ったことを図書館司書に相談したり、関連書籍を複数読み比べたりすることで、情報収集能力や批判的思考力を育みます。
- 物語創作と技術の融合: 図書室で得た知識や物語のアイデアをもとに、Scratchなどのビジュアルプログラミングツールを使って物語を表現する活動に繋げます。物語の舞台となる場所の情報を調べたり、登場人物の心情変化をプログラミングで表現したりすることで、創造性と論理性を連携させた学びが生まれます。
- 調べ学習の成果発表: 図書室の一角を利用して、調べたことや作ったものを展示したり、小さな発表会を行ったりすることも可能です。他のクラスや学年の子どもたち、先生にも見てもらう機会を作ることで、学びの共有と発展に繋がります。
理科室を活用する:科学的な探究と工学的なものづくり
理科室は科学実験のための設備が整っていますが、それだけでなく、様々な計測機器や素材、工具などが揃っており、工学的なものづくりやデータ収集・分析にも活用できます。
- 身近な現象の探究と応用: 理科で学習する光や音、電気などの現象について、実験器具だけでなく、身近な素材や簡単な回路と組み合わせて「どうすれば〇〇なものが作れるか」といった工学的な問いに発展させます。例えば、光の性質を利用した簡単な投影機を身近な材料で作ったり、音の振動を利用した楽器を自作したりする活動です。
- データの計測と分析: 気温や湿度、物の重さや体積などを理科室の機器で正確に計測し、そのデータをグラフ化したり分析したりする活動を行います。このデータをもとに、「より効率的な断熱材は何か」「特定の条件で最もよく育つ植物は何か」といった課題解決に向けた探究を進めることができます。
- プロトタイピングと改良: ものづくりを行う際に、理科室にある材料や工具を活用して試作品(プロトタイプ)を素早く作り、実験結果や観察に基づいて改良を重ねるプロセスを体験します。これはデザイン思考のプロセスにも繋がり、課題解決能力を高めます。
図工室を活用する:創造的な表現と工学・技術の連携
図工室は様々な素材や道具があり、自由な発想で形を生み出す場所です。ここでは、芸術的な表現と技術や工学を連携させた活動が考えられます。
- 動く・光る作品づくり: 図工室にある様々な素材と、簡単な電子部品(LED、モーターなど)やプログラミングを組み合わせ、動いたり光ったりする作品を制作します。例えば、粘土や厚紙で作った生き物にモーターをつけて動かしたり、空き箱とLEDで街のイルミネーションを作ったりする活動です。これにより、造形的なスキルと技術的な知識を結びつけることができます。
- 素材の特性を探究: 図工室にある多様な素材(木材、金属、布、プラスチックなど)の特性(強度、柔軟性、熱伝導性など)を調べ、それぞれの素材がどのようなものづくりに適しているかを探究します。これは、工学的な視点で素材を理解することに繋がります。
- 空間デザインとモデリング: 図工室の広い空間を利用して、理想の街や未来の乗り物などを立体的にデザインし、様々な素材でモデルを制作します。3Dモデリングツールと連携させ、デジタルとアナログを行き来する表現活動も可能です。
その他の場所・備品を活用するアイデア
- 家庭科室: 計測、調理過程での物質の変化(化学)、衣類の構造やデザイン(技術・芸術)、食料問題や環境問題(社会・理科)など、生活に密着したテーマでの探究が可能です。
- 音楽室: 音の性質(理科)、楽器の仕組み(技術)、音楽表現と感情(芸術)、プログラミングによる作曲など、音を起点とした多様な学びが展開できます。
- 体育館・校庭: 身体の動きと力学(理科)、運動データの計測と分析(数学・技術)、空間認識、自然観察、簡単な構造物の設計と建設(工学)など、身体を使ったダイナミックな活動が可能です。
- 廊下・昇降口: 掲示スペースを活用した成果発表や情報共有、人の流れや物の移動距離の計測(数学)、自然光や通気に関する観察(理科)など、日常の空間を学びの場に変えるアイデアがあります。
- 学校内の備品: 壊れた備品を修理する(技術・工学)、使われなくなった備品を別のものに作り変える(工学・芸術)、備品管理の仕組みを考える(社会・数学)など、身近な課題解決に繋げることもできます。
実践のポイント:既存リソースを最大限に活かすために
学校内のリソースを活用してSTEAM教育を実践する際には、いくつかのポイントがあります。
- 既存の教科単元との連携: 既存の教科の学習内容と関連付けることで、新しい時間を確保することなく、普段の授業の中でSTEAM的な探究活動を取り入れやすくなります。例えば、理科の単元で学んだ知識を図工室でのものづくりに応用するなど、教科間で学びを繋ぐ意識を持つことが重要です。
- 時間の使い方を工夫する: STEAM教育全てを特別な時間に行う必要はありません。教科の授業時間の一部を使ったり、総合的な学習の時間、クラブ活動、あるいは休み時間や放課後といった時間も活用したりすることで、柔軟な実施が可能です。
- 安全管理の徹底: 特別教室や普段あまり使用しない備品を活用する際は、それぞれの場所の特性に応じた安全管理が不可欠です。工具の使い方や薬品の取り扱い、移動経路の確保など、事前に十分に準備と指導を行います。
- 他の教職員との連携: 図書館司書や理科専科、図工専科、家庭科専科など、それぞれの専門性を持つ先生方と連携することで、より深い学びや多様な実践が可能になります。情報共有や協力体制を築くことが成功の鍵となります。
- 低コストで始める工夫: 高価な専門機器がなくても、身近な廃材や100円ショップで購入できる材料などを活用することで、十分な学びが得られます。創造性を育む上で、制約がある中で工夫することも大切な要素です。
まとめ:身近な場所からSTEAMの探究を始めよう
小学校にある特別教室や図書室、その他の場所は、子どもたちが既に慣れ親しんでいる、安心できる空間です。これらの身近なリソースを活用することで、STEAM教育を特別で難しいものではなく、日常の学びの延長として捉えることができます。
学校内の環境を「学びの道具」として捉え直し、既存の教科や活動と連携させることで、子どもたちの探究心や創造性を引き出す多様なSTEAM活動を展開できるでしょう。ぜひ、身の回りの学校にあるものから、STEAM教育の実践を始めてみてください。